旅館にとって当面の至上命題は、いかにしてGOPを5%アップさせるかだ。それには、料飲サービス料率(料飲率=材料費、厨房や接客コストなど)の引き下げが不可欠であり、具体的な方法論も機会があるごとに指摘し続けてきた。また前回は、接客面の切り札として事務部門要員の活用について、「定員(従業員総数)」の見直しと言った観点での提案を試みた。いわゆる「オールラウンド化」がそれに当たる。なお、今回からは客室定員との混同を避けるために従業員数については「定数」と表記することにした。
定数の一例としてフロント10人、事務所15人、客室係30人といった態勢をとっている旅館のケースを前回紹介した。この場合、客室係のほかに、フロント係や事務職員をも加えて接客にあたれば、客室係10人の態勢でも運営可能なことを指摘した。総勢55人で行っていた業務が、20人減の35人態勢でも同等の接客は行えるということになる。
また、繁忙期にはこうした対応が多くの旅館で実施している実体も紹介したが、その際の基本的な発想は「忙しいときのヘルプ」の域にとどまっている点を問題視した。これから必要なことは、発想をまったく一新した従業員の「定数」なのだ。
前出の例とは別に、ある大型旅館の年間客数の動態調査がある。定員規模は約800人弱で、年間の宿泊者総数は約14万人。主要マーケットからの時間距離や繁閑期の差が大きいなどの立地条件から、定員規模に対して総数はやや少なめだが、GOPは確実に15%超を弾き出している。
まず、年間の月別客数(表左端)のうち表中の「定数」とあるのは、日々の利用客数と接客に必要な人数を理論上でシミュレーションしたものである。1月だけを捉えると、客数に対して「定数」は月間で436人であり、単純計算だと1日当たり14〜15人で賄えることになる。同様に月別客数順(表中央)で最も多い7月をみると、定数は月間671人で、1日22人程度になる。ただし、こうした単純計算が成り立たないことは、宿泊実体を十分把握している経営者にとって意味のない数字であるに違いない。当然ながら曜日波動が作用しているからだ。
つまり、客数の最も少ない1月でも、客数が1日500人超の日が5日あり、中にはピーク期の最高人数に匹敵する700人超の日も含まれている。ところがこの5日を除くと300人に満たない日が17日ある。この波動が定数を勘案するうえで大きな課題になっているのは事実だ。
もう1つの課題は、夕食の提供形体にある。月別接客要員数順(表右端)をみてほしい。客数と定数は、決してイコールではない。客数で4番目の10月が定数では最も多い705人であり、客数1番の7月を上回っている。逆に客数2番目の8月は、定数が8番目に下がっている。
客数と定数の非整合が意味することは、前回指摘した「人の動きを徹底して見直し、シフト運営をはじめシステマチックな仕組みづくり」の必要性を示唆している。
|