「儲けるための旅館経営」 その26
従業員の必要「定員」見定めを

Press release
  2010.3.6/観光経済新聞

前回、GOPの5%アップが、旅館の当面する至上命題だと述べた。GOPが15%に満たなければ、将来の経営構想も描けない「経営危機」と認識する必要があるにもかかわらず、多くの旅館が現状に妥協している――この状況は、何としても打開しなければならない。

そうした意味から、これまで料飲サービス料率(料飲率=材料費、厨房や接客コストなど)の引き下げを提唱してきた。とりわけ客室係による接客サービスの現状を精査し、CS(顧客満足度)を落とさずに再構築する視点から検証を続けた。シンプルに表現すれば、15人必要だと考えてきた客室係が、10人でも十分に機能できる仕組みをつくれば、人件費は5人分軽減される。さらに一歩踏み込んで、料理運営全体の仕組みを再検討すれば、そこにも経費削減につながる「埋蔵金」を見出すことは可能だ。

そこで、料理のレシピ化や計画仕入れについても言及してきた。厨房作業のフロー(下図)をみると、各段階でコンピュータ化や保管機材を含む機械化の余地が多分にある。とりわけ館内に複数の料飲施設を保有する旅館場合は、セントラルキッチン化によって料飲サービス料率が、大幅に低減できる。しかし、GOPの上がっていない状況下では、それに向けた投資資金が捻出できない。そこから先のロジックは「鶏が先か卵が先か」に陥ってしまう。

新規機材の投入や機械化ができなければ、人海戦術に出るしかないのだが、それでは人件費が膨らんでしまう。開き直って手を打たなければ、じり貧になるのも分かっている。そうした八方ふさがりを、どうするかだ。

そこで、当面の施策としては、料飲サービスコストの中で、新規の投資を必要としない接客コストの低減に落ち着いてくる。ただし、ここにおいても前回指摘したように、経営者自身が「やむを得ない」と妥協の姿勢をもたないこと、従前から続けている館内運営の仕組みを抜本的に見直すことの2点が大きくかかわっている。

抜本的な仕組みの変更とは、一言で表現すれば「定員の見直し」だ。この場合の定員とは、旅館キャパシティーの客室定員の意味ではない。施設規模や維持しようとするグレードに見合った従業員数としての「社員定員」の意味である。

ある旅館の例を紹介してみよう。そこでは、フロント10人、事務所15人、客室係30人といった態勢をとっている。したがって、実際の接客は客室係の30人で行っているわけだ。このケースの場合、フロント係を接客に回せば、客室係は20人でまに合う。さらに、事務部門を回せば、客室係10人態勢でも運営できる。言い換えれば、総勢55人で行っていた業務をタテ割態勢ではなく、タテ・ヨコ縦横に活用する高度なオペレーションさえ構築できれば、20人減の35人態勢でも同等の接客は行えるということだ。

ところが、こうした話題になると「忙しいときに事務所が手伝うなどは、すでに実施している」と言った答えが大半から返ってくる。だがこれは、ヘルプであって定員化の発想とは違う。裏返せば、タテ割発想の下で行われているヘルプは、繁忙期の泥縄的なその場しのぎの対応であり、閑散期にはヘルプを必要としない。つまり、ヘルプが可能な余力を無活用のまま放置しているわけであり、閑散期の人件費を垂れ流ししているにも等しい。

定員化とは、業務運営の仕組みを根本から見直し、社員定員数を何人にするかと言う発想にほかならない。人の動きを徹底して見直し、シフト運営をはじめシステマチックな仕組みづくりでもある。極論すれば、事務職の活用を見直す時期にきている。