観光経済新聞の1面トップ記事に、国観連の08年度業績が発表されていた(2月6日付)。「半数が経営赤字に」「宿泊人員は10%減」との活字が大書されている。これを目にした経営者諸氏が、ショッキングな見出しと捉えるか、これが実情だから自館もやむを得ないと思うかでは、雲泥の差がある。
その記事を読み進めると、最後にGOP(Gross Operating Profit=営業総利益)の現状が記されている。「(全体では)前年度より0.7ポイント下降し平均9.0%。小型旅館は0.4ポイント増の8.9%、中型旅館は0.5ポイント増の8.6%と上昇したが、大型館は1.4ポイント減の9.2%に下降した」とある。
旅館が再投資の余力をもちながら健全な経営を維持するには、GOPとして15%を確保する必要がある。90年(平成2年)ごろのGOPは、平均で15%を超えていた。それが年ごとに低下してきた。約20年で6ポイント超の減少であり、20年と言う歳月を考慮すると、単純に計算すれば年に0.3ポイント程度のマイナスでしかない。「ちょっと下がった感じ」ともいえるが、それが延々と続くと、いつしか現状認識に対する感性がマヒしてくる。俗な言い方をすれば「こんなものだ」と言う感覚に支配されてしまう。
その裏返しとして、しばしば接する実例がある。GOPを5%上げる提案に対して、「それは不可能だ」との答えが返ってくる。現在の旅館にとってGOP5%アップは至上命題のはずだが、何かを行動する前に否定的な考え方に支配されている。あるいは反応の鈍化しているケースが多くある。
余談だが、狂信的な宗教団体でマインドコントロールが話題になったことがある。このマインドコントロールとは心理誘導であって、そうした作用の1つに「つじつま合わせ」が指摘されている。冒頭の「これが実情だから自館もやむを得ない」と言った心理も、どこか共通している感じが、筆者には否めない。とくに、ものごとを理路整然と考える人間が陥り易い傾向なのかもしれない。肝心なことは、世間の動向はどうであれ、自館は自館としての経営目標をもってほしいとの期待を込めた話であり、心理学の門外漢としては、これ以上の展開は避けた方が無難だろう。
本題に戻ろう。GOP5%アップは、決して絵空事ではない。極めてシンプルに考えれば、経費の中で人件費と原材料が、総売上高の50%を占める現実に目を向けることだ。この50%をどれだけ下げられるかで、GOPがどれだけアップできるかが決まる。この経費を5%下げられれば、GOPは5%アップすると考えればいい。実際にはそれほど単純ではないが、少なくとも導入部の発想は、それくらい平易で俗っぽく捉える方が行動に移しやすいはずだ。
ただし、その前提として経営者自身が「やむを得ない」と妥協の姿勢をもたないこと、従前から続けている館内運営の仕組みを抜本的に見直すこと――この2つが重要なポイントになる。前者は世間の動向が主たる要因だが、それが後者へも影響している。例えば、実際の運営現場では、年に何回か起きる「かもしれない」状況を、さも日常的な状況と捉えがちだ。用意周到な対応と言えば聞こえはいいが、実際には機能する機会のほとんどない作業やその要員(人件費)を、温存しようとする傾向が、現場には少なからずある。働く側とすれば慣れ親しんだ仕組みを変えたくない心理と、それに加えて経営者の妥協がある。
それらを排してGOPアップの新しい仕組みを構築すること。これについては、最も至近な対応策が料理運営コストの削減であり、これまでさまざまな角度から捉えてきた。いわゆる料飲サービス料率(料飲率)の引き下げなのだが、イメージとして原材料のランクダウンや厨房要員の削減などが真っ先に思い浮かぶようで、「長年培ってきた暖簾に傷がつく(品質を維持できない)」と言った答えが真っ先に返ってくる。「どこで儲けて、どこで損をしているか」を糺さなければ先は見えないと知るべきだ。
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