「儲けるための旅館経営」 その24
厨房マネジメントの見直しを

Press release
  2010.2.20/観光経済新聞

今回のテーマに据えている料理メニューのレシピ化は、@使用素材の詳細な分類A作業手順の明確化――と言う2つの側面から料理を管理するもので、材料原価を引き下げても現状のクオリティを維持するとともに、GOPアップを目指す手法といえる。

まず、前回の「計画仕入れ」について若干の補足を加えておきたい。計画的に仕入れることは、別の面で捉えれば仕入の量を安定させる意味があり、納入業者にも大きなメリットがある。その延長線上に価格の引き下げ効果がある。それを、原価は下がるが「質は下げない」の図式として提起した。

しかし、レシピ化も計画仕入れも行っていない旅館では、厨房作業の途中でしばしば見られる象徴的な光景がある。

「○○がないぞ、すぐに注文して持ってこさせろ」と言った光景だ。そこで言う「○○」は、レシピ化が確実に行われていれば、まったくあり得ない光景にほかならない。それによる作業の遅滞は、時間のロスであり視点を換えれば人件費のロス以外の何ものでもない。しかも、こうしたロスは、経営者の目の届かない場所で発生しているだけに、始末が一層悪質だ。これもブラックボックスの悪弊といっていいだろう。

また、レシピ化と計画仕入れに関連したテーマとして、最近の話題になっている「地産地消」が挙げられる。例えば、新鮮な地野菜への消費者の関心は極めて高まっている。道路沿いの地野菜直売所などは、観光土産の専門店より駐車場が混雑しているケースも少なくない。ところが、旅館のメニューで地野菜を表示しているケースは稀だ。理由はさまざまだが、とりわけ生産者と旅館の仕入の構造に問題がある場合も少なくない。

旅館の言い分は、安定的に供給されるものでなければ、メニューに組み込むことは難しい。一方、生産者の側では、消費量を作付前に確定しておいてもらわなければ、生産のリスクが大きいと言う。どちらの言い分にも一理あるだけに、簡単に解決できる問題とは言い難い。とりわけ旅館では、予約客数と実際の客数は常に変動する事情がある。これを解決するには、地域の旅館が一体になった共同仕入れともいえる「計画仕入れ」の仕組みが必要になってくる。これへの対応策は機会を改めて述べることとしたい。

同様に生鮮魚介類の計画仕入れもある。これについては、メニュー表示を工夫することで、提携した漁業者との間で計画仕入れをする方法も考えられる。例えば、「○○の焼き魚」ではなく、「地元の新鮮な焼き魚」とすることで、その日の漁獲量に合わせた合理的な消費形態も一案だろう。そうした柔軟さは、レシピ化を進める上で欠かせない。決めたメニュは、何が何でも守ると言う硬直化した発想でだけで、低価格路線でのGOP確保は難しいと考えるべきだろう。

さらに、レシピ化の大きな意味合いは「作業の平準化」にある。厨房作業の作業工程(下図参照)では、すべての工程で高度な調理技術が求められるわけでない。また、すべての料理が各作業段階を経るとも限らない。つまり、レシピ化された料理では、極論すれば誰がやっても同じのものが少なくない。逆に、それを見えるようにするのがレシピ化でもある。例えば、2万円の単価で使う刺身のツマは、熟練した板前が桂剥きにしたものを用いるが、単価が8000円ならばパート従業員が器具使った量産式で問題はないはずだ。しかし、用いる大根はどちらも計画仕入れをした同じもので済む。

こうした例は枚挙に暇がない。料理長の技量(マネジメント能力)が、これからの厨房運営には欠かせない。