前回に続いて「レシピ化」を考えてみよう。その場合のポイントの1つとして、多くの旅館では「仕入」の現状を再検証する必要がある。中規模以上の旅館はもとより、とりわけ大規模やチェーン展開をしている旅館では不可欠要素と言える。
本シリーズでは、これまで料理提供にかかわる人件費(料理提供サービス料=料飲率の1項目)を低減させることで、GOPが大きく変化することを述べてきた。だが、そうしたコスト削減だけでは、立ちいかないケースについても、筆者のもとにはしばしば相談がくる。それほどに価格志向が高まり、低価格化の波が急激に押し寄せていると言うことにほかならない。
実際にある旅館の場合、サービスレス化に近い状況にまで人件費を切り詰める一方、CSの維持を図るために館内運用の仕組みを改変し、価格志向に対応してきた。しかし、GOPの向上には至っていない。残る削減項目は、食材原価に手をつけることだった。
旅館の3要素である「宿泊、温泉、食事」の重要性を理解しているその旅館のオーナーは言う。
「ハード面での大幅な改善は、日々のメンテナンスを充実させることで、余力ができる一定時期までは先送りできるかもしれないが、料理だけは難しい。人件費の面で可能な限り手を打ってきたが、このうえ原価を下げてしまえば、これまでの努力が水泡に帰すのではないか」と懸念を抱いている。
経営者として見識の高さは窺えるのだが、「原価を下げる」と言う面では、少なからぬ誤解があるのも否めない。前回の記事中で指摘した「厨房のブラックボックス化」に通じる一面が言葉の端々に感じられるからだ。料理長に信頼を置くことは否定しないし、料理が集客に大きくかかわっているのも事実だ。誤解というのは、料理の腕とマネジメント能力は、決してイコールでないと言う部分の見定めにある。
さらに厳しいことを言えば、料理のノウハウを素人が云々することは難しいが、料理提供サービス料のコスト内訳を読み解くことはできるはずだ。前出の経営者は、それを行っていない。と言うよりも、料理長がコスト内容を示していない。マネジメント能力が低いのか、あるいはブラックボックスであるが故に現実の数字を開示しないのか、その辺りは想像の域を出ないために、ここでは掘り下げずに話を先へ進めよう。
そこで、厨房作業と食材の関係を簡単に整理してみよう(下表参照)。一言でいえば、「1人分の材料×客数」で必要な総量は弾き出せる。もちろん、材料の歩留まりや相場価格の変動ほか細かな要素もあるが、肝心なことは、価格帯別のメニューと人数が根底にあり、メニューがレシピ化されていれば、個々の料理に必要な原価を計算上は導き出せる。
この点は、レシピ化に基づく「計画仕入れ」と認識しておく必要がある。この「計画仕入れ」によって従来と同等のものを、従来以下の仕入値に変えさせることが可能になる。言い換えれば、原価は下がるが「質は下げない」の図式をつくりだすことが可能なのだ。
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