旅館の満足要素は「宿泊、温泉、食事」に集約できる。また、この3要素にはハードとソフトがそれぞれ必要だが、この点については個々の旅館が自館の実情をとおして実感し、認識していることだろう。ただ、価格志向が高まり、低価格化路線を選択しなければならない場合は、従来の認識の仕方では対応できなくなっているのも事実だ。
そこで本稿では、GOP(Gross
Operating Profit=営業総利益)に焦点をあてながら、室料=宿泊にかかわるすべての費用(@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP)、料飲サービス料=料理提供にかかわるすべての費用(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)と言った2大区分を行い、そこから「どこで儲けて、どこで損をしているか」を洗い直し、儲けの出る体質への転換を提起している。
例えば低単価路線では、コストの中で大きなウェートを占める接客係の人件費に着目した。接待係1人あたりの担当人数を変えることで、料飲サービス料(料飲率)は大幅に変わってくる(下図参照=消費単価1万5000円程度の旅館が9000円程度に対応した場合の参考数値=再掲)。また、何組かの団体やグループ対応でも、会食のスタート時間を少しずつずらすことで、接待係の運用は変わってくるし、それと連動させた「調理人おもてなし宴会」(前回、前々回参照)によっても、人件費はさらに低減できる。
人件費の低減に向けては、厨房の仕組み(作業動線)を変えることで、さらに効果を発揮させることが可能だが、その前提としてメニューのレシピ化を明確にしなければならない。レシピ化とは、概括的に捉えると@使用素材の詳細な分類A作業手順の明確化――などを意味している。
余談だが、「レシピ」と言う言葉自体は巷に氾濫している。インターネットの普及した今日では、何かの料理を家庭で作りたいと考えた時、ほとんどの料理レシピは入手することができる。いわば指南書であり、そこには使用材料、必要な分量、調理の手順が詳細に記されている。しかし、その通りに材料を揃えて手順どおりに作っても、結果は保証されていない。言葉悪くいえば、所詮は素人料理の域を超えることができない。調理のノウハウそのものは、言葉で書き表すことが難しいためだ。
本題に戻ろう。本稿の前提条件として「レシピの明確化」が必要だとする一方で、料理のノウハウは「言葉で書き表すことが難しい」と言う表現は矛盾するようだが、これは、料理のプロと素人の違いと解釈してほしい。
ここで言うレシピ化とは、板前が料理のプロである以上、当然ながら料理づくりの指南書と言った意味ではない。マネジメントのためのレシピ化が、ここでのテーマなのだ。料理長には、そのマネジメント能力が問われているわけで、GOP重視の観点から言えば、その現状がどうであるのかも、経営側での要チェック事項となる。また、素人と言うと語弊もあるが、総じて経営側に調理の核心的な部分でのノウハウは乏しい。それが厨房をブラックボックス化させる要因の1つにもなっている。
つまり、レシピ化とは料飲サービス料を考える上で、重要素の1つなのだ。
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