今回は、セグメント化に着目する大きな理由を述べてみたい。料飲部門の運営コストがすべてに連動しているからだ。それを解くカギの1つとして前号では、北海道でのバイキング方式による料理提供を例示した。これを細述してみよう。
北海道は15年前にパック旅行の洗礼を受けた。その時、各施設はなりふり構わずバイキング化に踏み切った。理由は簡単だった。パック旅行の料金をブレークダウンし、北海道までの交通費を差し引いた1人当たり単価に換算すると、宿泊は5000円ぐらいで受けざるを得なかったからだ。だが、薄利多売で決して高率といえないまでも、GOPが確保できるならば、それを蓄積することで基礎体力が培われる。その結果、バイキングだけでなく食事処や部屋食など食事サービスのピラミッド構造が再構築され、そうした形態での受け入れでは単価もアップしていった。それでもオフ期の約4か月は、やはり5000円を受けていかなければならない。全体の客数に照らすと4割ぐらいは、相変わらず低価格ということになる。
ひるがえって、北海道以外の地域をみると、ほとんどが「旅館の格」や伝統的な「旅館の在り方(イメージ先行)」に拘泥して、バイキング化を退けたGOP不在の経営を続けている。多少辛辣にいえば、そうした旅館の経営が破たんしてファンドの手に落ちると、バイキング化が自動的に達成される。なぜならば、そうした旅館を手中にした新たな経営母体は、当然ながらマーケットでもっとも層の厚い価格帯をセグメントし、それに見合った単価を前提にオペレーションを組み立ててくる。結果として、地域にとって不本意な形のセグメントが形成されていく。そこに新規参入組と既存の旅館軍団の棲み分け構造が、否応なくできてしまう。おまけに、ハードを低コストで手に入れたうえで、バイキング料理といった低コストのオペーションを展開されたのでは、既存の旅館軍団の旗色がますます悪くなってくる。
従来の地域での価格展開をみると、1万5000円クラスが1万3000円に落としてくると、それまで1万3000円クラスだった旅館が1万円に下げるといった「下降スパイラル」が、地域全体に発生する。それがもたらす経営への圧力は、オセオセ式の引き下げによって強まるのは確かだが、臨界点へすぐさま到達するわけではなかった。言い換えれば、下を見たときに「あそこまでは落ちたくない」という「あそこ(落ちていく地表)」は、見えていてもそれなりに離れたところにあった。それが従来の構図だった。
ところが現在は、従来のスパイラルではなくダウンバースト(下降気流)と言えそうな現象が生じている。ダウンバーストが恐れられているのは、吹き付けた地表付近で壊滅的な破壊力を発揮するためだ。その地表とは、かつて「あそこ」と見ていた価格帯であり、しかも元気な新規参入組が、その地表を席捲したうえで、さらにせり上げ(底上げ)させている。譬えるならば、上空から地表までの高度差が少なくなってきた。新スタイルの新規参入組に近かった価格帯の旅館は、もはや質や価格を下げる余地がない。地表に近い価格帯の旅館が、その破壊力に曝されていいわけがない。北海道でのバイキング化を例示したのは、こうしたダウンバースト圏内からいち早く抜け出す手立ての1つにほかならないためだ。
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