前回は、価格帯が6000円から1万2000円のA館、6000〜8000円のB館、7000円のみのC館を想定して、利益構成因子に違いがあることを単純な形で示してみた。狙いは、複数価格帯と絞り込んだ価格帯では、運営オペレーションが異なり、当然ながらコストの最大項目である人件費の違いに気付いてもらうことにあった。同時に価格帯別の構成比は、手元のデータを解析する限り、各館ともに低価格帯が7割程度を占めていることが分かった。これは、多くの一般的な旅館の実体とみてよさそうだ。ちなみに、この想定で示したA館については、単なる理論上の仮想旅館ではなく、実際にこの価格帯で運用している旅館の話でもある。
このA館では、6000〜8000円(宿泊客全体の70%)、9000〜1万1000円(同26%)、1万2000円以上(同4%)の価格帯を、3つのグループに分類し、6000〜1万1000円までの夕食をバイキング形式とし、1万2000円以上は部屋食か食事処(前回表中では「他」と表記した)。朝食は原則として全価格帯がバイキングだ。
さて夕食のバイキング会場というのは、高低差のある単価のお客が同じ料理を食べることになる。お客の心理を考えれば、高単価客用に別の料理コーナーを同一会場内に設けるわけにはいかない。仮にパーテーションでしのいだとしても、心証は決してよくないし、同一の基本料理を2カ所に配置しては効率面で意味がなくなる。別会場方式も同様で、効率とダブルオペレーションで問題が多い。したがって、会場は基本的に1カ所とし、単価に対する料飲サービス提供率は、あくまでも低価格帯の一定料金をベースに算出することになる。しかし、高単価客には何らかのプラス要素を提供しなければ、納得が得られないのも事実であり、そこに研究の余地がある。この点についてA館の場合、バイキング会場での対応として2つの価格帯に区分し、8000円までを会場基本料理、9000円以上には先付け(意味あいは「別注料理」)を提供している。
余談だが、A館のバイキング会場で客とホール員(接客係)の間で、次のような会話があった。
「あのテーブルの料理は、こちらにはないの」と、7000円の宿泊客が聞いた。これに対してホール員は「別注料理なんです」と答えた。すると「幾らなの」と客。ホール員は「2000円です」と。
他愛のないやりとりだが、初めに別注料理ありきで、基本プラス別注料理の形をとるか、別注料理が込みになっている形にするかでは、客に与える心理的な効果が違う。前者の場合、別注料理で値段を釣り上げていると感じられてしまい、旅館の対応そのものに差別の不快感を覚え、結果としてイメージダウンにつながる。これに対して後者は、先付け(別注料理)や部屋のグレード格差があることを、客が事前に理解しているので違和感など生じないようだ。こうした対応で高単価客の優位性と、低単価客の満足を、A館ではうまい形で両立させている。
また「2000円です」の答え方は、料金格差を背景にしたものだが、そこにはもう1つの意味あいもある。別注料理の値段を聞いた後の客の反応は、判で押したように誰もが「じゃあ、いらない」と言う。A館の場合、それへの注文率は5%以下で、ほとんど注文がない。いわば、イレギュラーな注文が発生することで、調理現場の作業に混乱を来すケースも避けている。
一方、別注料理を積極的に販売することで、最終的な総消費額のアップに努めている旅館もある。そのケースでは、厨房作業だけでなく仕入から食事後まで綿密に計算された運営オペレーションを構築している。接客係の個人的な資質に作用されないような運営指導の教育も徹底されており、これも1つの方法としては注目できるが、そこに至るプロセスは一朝一夕でない。
以上はバイキング方式による対応例の1つだが、ここでの発想は低額化する宴会方式にも通じるものがある。料飲サービスのオペレーション刷新へ、真剣に取り組んでほしい。
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