「儲けるための旅館経営」 最終回
生き残りのカギ、旅館ユニシスの深耕を

Press release
  2013.9.28観光経済新聞

旅館ユニシス(旅館ユニフォームシステム)は、これまで述べてきたように米国ホテル協会のホテルユニフォームシステムをベースに、日本旅館の実情に即した「管理会計システム」の構築を目指してきた。米国ヴァージョンは、当然ながらホテル形式の運営で十分な機能を発揮するものだが、運営形態の異なる旅館では、そのままの形で移入をしても余分な混乱を招くことが少なくない。過去、何度か導入を試みた事例もあるようだが、大半は中途で放棄されている。

例えば、一般的なホテル運営での管理会計は、宿泊部門、料飲部門、宴会部門、その他各種営業部門などに区分できる。しかし、ホテルと旅館の根本的な違いは、個々の部門が独立しているか否かだ。1泊2食の販売形態では、ホテルのような部門別形態で管理会計を試みても意味がない。これに対して筆者は、料理運営コスト(材料費から消耗品、厨房や接客人件費を含む料理提供にかかわる一切のコスト)と室料売上の2大概念を独自に構築した。

なぜなら、お客に馴染みと利便性を与えている1泊2食形態の販売方式では、単純計算だと「消費単価−料理運営コスト=室料売上」が成り立つ。室料売上には、一般販売管理費やGOPが含まる。つまり、料理運営コストの掛け方次第で、GOPが大きく変化する。

一般に会計システムは、3つの目的で分類できる。第1は本稿で強調してきた管理会計だ。これは、経営者や管理者などマネジメントの中枢にある人々が、運営実態を把握するための会計システムだ。意思決定や経営管理を目的とした会計であり、これについて筆者は、経営実態の「見える化」と位置付けてきた。第2は、財務内容を報告する財務会計、第3は税務にかかわる税務会計だ。

新しい考え方を採用する場合、それをイノベーションと呼ぶこともできるが、その際に肝心なことは、受け入れる側が理解し利用できる形への変容が欠かせない。旅館ユニシスは、管理会計の視点からその深化を図ってきた。また、イノベーションが受容されるには、変容だけでなく、必然性も欠かせない。これは、時代をともに変化する一面も備えている。

前回、改正耐震改修促進法の話題を持ち出したが、コンプライアンスとコーポレートガバナンスの2つの視点で捉えた場合に、答えは自助努力を核に取り組まなければならないのは明白だ。その際の資金繰りでは、経営を「見える化」することで返済原資が確実に確保できるエビデンスが必用となる。つまり、改正法は当面の課題だが、これに準じた事柄はさまざまに起こり得る。その都度あたふたするのは愚の極みに等しい。中長期の経営計画と運営実態を的確に捉えたマネジメントが絶対の条件となる。

それには自社の置かれている状況を冷静に、かつ数値で判断した理解が不可欠だ。右肩上がり時代の旅館経営は、動体視力とハンドルさばきで自動車を運転していたようなものだ。スピードメーターやタコメーターはもちろん、燃料計や水温計、走行距離を気にするよりも、前後左右を走る車の動きに合わせるか、あるいは小器用なハンドルさばきが大事だった。だが、これからの時代は減収増益への対応が企業生き残りのカギになる。それには旅館ユニシスによる継続的な記録、あるいはその数値に基づいた分析、その結果を踏まえた次の一手が何としても欠かせない。旅館経営の計器とも言える旅館ユニシスが、真骨頂を発揮する場面だと筆者は考えている。また、それが旅館のイノベーションになると信じている。

ただ、旅館ユニシスをイノベーションの普及過程に照らすと、ほんの数%の革新的採用者が生まれ始めた段階にとどまる。せめて10%程度の初期少数採用者が現れるぐらいの啓蒙活動を続けたかったが、連載が10年余に至った現在、心ある経営者に初期少数採用者としてのオピニオンを託したい。長期間お読みいただいた皆さまに感謝の念を抱きつつ、断腸の思いで筆を置きます。 (おわり)