「儲けるための旅館経営」 その185
いま必要な減収増益の体質づくり

Press release
  2013.9.14観光経済新聞

前回、旅館ユニフォームシステムの業界スタンダード化を提起した。これは、公的な法人格をもつ団体や機関などが、何らかの形で各旅館の運営会計データを集約管理し、基本事項の各科目の平均値などを共有できるようにするもの。加盟各旅館は、自社の運営実態を業界の指針的数値に照らして把握することにつながる。そうしたデータは、地域内での棲み分けや不必要な過当競争の抑止ほか、使い方を工夫すれば業界全体の業績アップに発展させることも可能だろう。むしろ、業界の叡智を結集して、そうした仕組みを構築することこそが、多様化する観光へのニーズの中で旅館業界が生き抜く術の一つであると言えよう。

こうした発想にいきつく理由は、21世紀の日本のあり様に照らしたとき、必然と言わざるを得ない。なぜなら、これからの日本では、かつて経験した右肩上がり「増収増益」の発想では企業運営が難しいからだ。最大の根拠は、日本が抱えている少子高齢化問題であり、これだけは避けて通れない(詳しくは国立社会保障・人口問題研究所ほかのリポート参照を)。

極め俗な従来のフレーズを使えば「パイが減少すること」になる。買う人が減るのだから増収は困難で、「減収」となる。増益部分を従来の発想に準じれば、当然「減益」になり、「減収減益」にみまわれることになる。また、パイの減少だけでなく、価値観の変化にるニーズの多様化も顕著になる。観光旅行で旅館に宿泊していたニーズが、他へ移っていく影響も少なくない。

もちろん、これでは旅館経営など成り立たない。そこで、生き残るためのキーワードを探すと「減収増益」しかない。売上の減る右肩下がりの中で、利益は伸ばしていく右肩上がりを目指すわけだ。まったく相反するベクトルを成り立たせるのは矛盾ともいえそうだが、企業活動は利益の追求が絶対条件であり、利益を求めない企業活動はあり得ない。

高度成長からバブル期、バブル崩壊の価格破壊、そして現在まで続いたデフレ経済を単純化すると、当然といえばそれまでだが、増収増益期は売上に対してコストが下回っていた。バブル崩壊とそれに続くデフレによって、極端な場合はコストが売上を上回る事態さえ生みだした。そして、これから目指す減収増益は、構図としては増収増益と変わらないが、内実は大きく変化させなければならない(下図参照)。

ポイントは、コスト削減だ。コストを下げれば、コスト曲線は収入の下側にいく。問題は何をどう削減するかだ。経験則や勘だけで、これに対処できる時代はバブル崩壊で終わっている。ヒト・モノ・カネの経営リソースを、極めて慎重にしかも最大限に活用する手法が、勝ち残り・生き残り経営に不可欠なのだ。

そして、リソースを活用するためには、前提として運営実態を数値データの形で適正に把握することが求められる。それこそが、旅館ユニフォームシステムの役割でもある。筆者が「儲けるための旅館経営」のタイトルで書き進めてきた内容は、究極のところ「どこで儲けて、どこで損をしているのか」を見定めることでもある。そのためには、日々の運営実態のディテールに目を向けなければならない。

その方法と日々の作業は、作業のための作業を強いるような煩瑣なものではない。なぜなら、コンピュータが生活の一部に組み込まれるほどの時代になったからだ。ツールを活用するには、イニシャルコストとランニングコスト、それに使いこなすトレーニングが必要だが、生き残りの成果に比べればわずかな投資だ。いま、それを必要とする。(つづく)