「儲けるための旅館経営」 その181
細部の実態把握で新たな展開も

Press release
  2013.8.10観光経済新聞

前回は、旅館ユニフォームシステム(旅館ユニシス)でディテールを把握し、さらにイノベーション創造のヒントを見出すと記した。この点をもう少し掘り下げてみる。

旅館ユニシスでは、核心に料理運営コストを据えている。理由は、これまで述べてきたように、旅館の基幹2大売上(客室と料飲)の中で、両者ともに単独で「売上」と呼ぶには、少なからぬ抵抗感がある。例えば、外食産業で単価「2000円」と言えば、当然ながら売上も2000円だ。宿泊業でもホテルで「8000円」と言えば、室料を意味するものであり、せいぜい朝食の有無までの話だ。ところが、前回も記したように旅館の室料は単純に出てこない。宿泊単価に対して料理運営コストを「どれだけ掛けるか」で客室売上が大きく変わってしまう。

例えば、健全経営に欠かせないGOP15%以上の確保を前提にしたとき、宿泊単価によって料理運営コストの比率が変わる(下図)。単価が1万3000円の場合は50%の6500円が料理運営コストであり、単価8000円ならば40%の3200円程度がGOPの出せる適正範囲といえる。

一方、単価の可変にかかわらず一定額で変化しないのが人件費だ。接客係1人の人件費は、1日8時間労働を前提に1日単価を算出すると、およそ1万2000円(法定福利などすべて含む)となる。ただし、1人当たり人件費は変わらないが、シフト運営での出勤状況やマルチタスクによる合理的な運営で、人件費の総額を変えることは可能だ。

単価1万3000円の料理運営コストを大まかに按分すると、人件費が3640円、原材料が1950円、その他910といった内訳になる。一方の単価8000円での内訳は、人件費1760円、原材料1040円、その他400円だ。

例えば、2つの単価での料理運営コストに含まれる人件費15分あたりの違いをみると、1万3000円が114円なのに対して8000円では55円だ。これとは別に、接客係人件費の15分をみると357円となる。これらの数値から読み取れることは幾つかあろ。

 その1つは、客室に案内して呈茶や非常口説明など一連の業務が1件(室)あたり15分程度だと、単価1万3000円で1室3〜4人の利用であれば、客室係1人あたり15分換算の人件費とかろうじて整合する。これに対して8000円では、7人ほどに対応できないと料理運営コストとして整合しない。

 これらは、ミクロ的に捉えた料理運営コストの1断面にすぎないが、そのわずかな差が積み重なってGOP換算で大きな負荷を生んでいると理解する必要がある。

 読み取れるもう1つは、人件費時間で15分の限られたもの中にムリの生じている実態だ。換言すれば、そこにイノベーションの必要性が見出せる。例えば、呈茶の廃止や新しい形を創出し、それが新たな誘客素材に位置付けられれば、まさしくイノベーションと評価できる。

 前回も記したが、旅館ユニフォームシステム(統一基準)として多くの旅館が活用することで、自他の比較が容易化するとともに、宿泊単価別のサービススタンダードを創出することにもつながるはずだ。また、経営計画を策定する際の数値的な整合を「見せる化」する上でも、最善のツールになるのが旅館ユニシスだ。 (つづく)