「儲けるための旅館経営」 その180
「見える化」でイノベーションを

Press release
  2013.8.3観光経済新聞

前回、旅館ユニフォームシステム(略称:旅館ユニシス)は、運営の実態を計数的に「見える化」するツールに譬えてみた。そして今後、日本旅館が生き残りをかけたイノベーションを創造する場合には、「見える化」がカギを握っているとも指摘した。

なぜ「見える化」が必用とされるのか。一言でいえば、GOPを確保するためだ。装置産業である旅館業のGOPは、言うまでもなく「客室売上の確保」にほかならない。ところが現実は、1泊2食の単価から料飲関連のコストを差し引いた額が客室売上となっている。この構図の中で現実を捉えたとき、いったい何が見えて、何が見えていないのかを答えられる経営者は少ない。極論をいえば、何ひとつとして「見える化」をされていない現実を突きつけられることだろう。

しかし、そうした現実は、一方で日本旅館がホテルなど他の宿泊施設と一線を画す大きな要因にもなってきた。一例を挙げてみよう。バブル期はもとよりそれ以前から、日本旅館では「施設・料理・接遇(接客サービス)」を3大セールスポイントにしていた。この3要素は、それぞれ独立して成り立つ部分と、3者が互いに影響し合って相乗効果を生み出し、それによって旅館の伝統と文化が育まれてきた部分とがある。

これらの相乗効果を利用客側の視点で捉えると、3要素は対価(料金単価)と満足度(CS)の関係で、同様の相乗的な捉え方がなされているはずだ。仮に1泊2食1万5000円の販売単価において、占有部分の客室と大浴場ほかのパブリックなど施設部分が合計7500円、2食(夕食朝食)とそれにかかわる接遇が7500円などと按分した上で、それぞれの満足度を評価していると考えること自体にムリがある。詰まるところ、1万5000円が総体として満足できたか否かが評価の分かれ目だ。

そして、売る側にも按分に向けた明確な指標があるわけではない。言い過ぎかもしれないが、いわゆる「大体」や「概ね」といったアバウトな把握の仕方で、旅館側の運営も客側の利用もなされてきたとみるのが妥当だろう。

さて、こうした3要素の相乗効果として生じる派生的な効果の存在を認めてしまうと、旅館業の基本的な売上構造を、客室売上と料飲売上の2大基幹収入に区分すること自体が難しくなってくる。前段の3要素の評価において、単体と相乗が考えられること自体に、ボーダレスな作用の混在が前提となっている。例えば、料理は食事を提供される空間、あるいは接客方法で、満足度が変わってくる。施設・料理・接遇が相乗的に作用し合っている単純な例だ。この場合のコストが、どのように按分できるのか難しい。同様に客室売上と料飲売上もボーダレスになっている。冒頭で述べたように、売上単価から料飲関連のコストを差し引く「減点法」が客室売上とするならば、減点の要素を極めてシビアに精査しておかなければ、最終的に残る利益が限りなく小さくなってしまうのは当然。GOPが弾き出せない世界だ。

 そこで、本稿で唱え続けている旅館ユニシスでは、経営のディテール把握を目指している。それは、従来のアバウトな捉え方の対極的な視点であり、その中核として料理運営コストに着目している。つまり、売上単価から減点法する料理運営にかかわる全コストを精査した。さらに、従来の指標にはなかった「コストバランス」の概念を持ち込んだ。単価に対する料理運営コストの比率は、決して一律ではない。自社の平均価格帯と高単価や低単価など個々に対応して可変させるものだ。また、このバランス比は、より多くの旅館でユニフォームシステム(統一基準)として活用することで、業界にとって共有の経営指針に育て上げることができる。

誤解してならないのは、これらの運営会計によってディテールを把握するだけが本旨ではないと言うこと。そこから見えてくるものに、イノベーション創造のヒントがあり、それがGOPを上げて生き残る手法と理解してほしい。(つづく)