「儲けるための旅館経営」 その18
デフレへの対応策が焦眉の急

Press release
  2009.12.12/観光経済新聞

 政府は0911月の月例経済報告で「日本経済はデフレ状況にある」との認識を表明した。バブル経済の崩壊後、01年3月には戦後初のデフレに見舞われ、5年4カ月後の06年7月にデフレ脱却宣言が検討されたものの実際には行われず、そのまま今回の事実上再デフレ宣言となってしまった。国際通貨基金(IMF)のデフレ定義によれば、少なくとも今後2年は、物価の下落が続くとみた対策を講じる必要がある。つまり、価格志向が強まって一層の低価格化を覚悟しなければならない状況に陥っている。

そうした厳しい経済状況の下で、旅館はどうやって生き抜けばいいのか。結論から言えば、大多数の旅館は、現状よりも客単価を引き下げ、それでも利益の出せる経営システムにチェンジしなければならない。経営の合理化や人員の削減は、いわば「出る金」を抑えることだが、「入る金」がなければ出を抑えても効果はない。客が集まらなければ、合理化も人員削減も意味がない。極論すれば、従来の単価1万2000円を価格訴求のできる60007000円にディスカウントしてでも、「入る金」を確保しなければならない。そうした中で、不動産業に必要な適正室料(4500円以上)を確保していく。ただし、それでも「お客を満足させる」という相反した条件を満たさなければ、経営の持続はあり得ない。

本稿でテーマとしている料理提供コストの見直しは、前述の「出る金」を抑えるのが目的ではない。むしろ、「入る金」を増やす施策と受け止めてほしい。

旅館の集客資源は、改めて言うまでもないが施設とサービス、それに料理が3大要素だ。大型投資の厳しい現下での施設展開は、大半が現状維持を余儀なくされているはずだ。無い袖は振れないの譬えと同じだが、それでも中長期の計画だけは描いておく必要がある。仮に6000円にディスカウントしても、適正な室料を確保していれば利益が出せるし、それによって中長期展望も実現できる。

多少乱暴な譬えだが、6000円から1万2000円までの価格帯をもったA館、60008000円のB館、7000円のみのC館を想定してみよう(下図参照)。当然ながら売上も平均単価もA〜Cの順に高低差がつく。しかし、利益の並びはまったく逆になる。A館の場合、価格帯別の運営オペレーション(ここでは大きく3ブロックに分類)を行っている。そうなると、各ブロックに対応した要員配置をはじめ、料理の種類も違う。単純に材料原価だけをみても、大量に一括購入で済むのと小ロット購入では、仕入原価も変わってくる。B館とC館では、運営オペレーションに大差はない。しいて言えば、客の側が抱く「なぜ価格が違うのか」の疑問に、B館は何らかの説明と販売努力を必要とする。

ゆえに「C館がベスト」などと断言する気など、筆者には毛頭ない。肝心なのは、料理提供コストの見直しが、客の満足につながる魅力ある料理提供につながるということだ。 例えばA館のケースでも、夕食と朝食の運営オペレーション(とりわけ接客コスト)で150円削減できれば、年間では1千万円単位の効果が発生し、現状にまさる料理提供が可能となる。大型投資が難しい現在、客の関心度が高い集客資源である料理にインパクトをもたせるさまざまな工夫が、焦眉の急との認識を是非にももってほしい。