前回に続いて長中期経営計画、あるいは事業計画について考えてみたい。事業計画書については、融資機関などでフォーマット化されたものもある。だが、前回の稿で掲げたように、第一歩は経営者が自ら事業の実態を、客観的に再認識するために策定するとの捉え方で、肩肘張らずに書いてみることを勧めたい。
実際には、ポイントを押さえて各論から書き始めるのが、最も手っとり早いし、論理的に整合していても実践できないような空論では意味がない。したがって、ポイントとして留意するものでの第1は、最も身近な1年サイクルの行事予定から書き起こしてみることだ。そこからシーズン波動の実態なども、経験則でない別の姿として把握できる。
もう1点は、1年間の実態を踏まえて3年、5年などの先を想定してみること。もちろん、抽象的な希望的姿を追ったところで意味がない。そこには「目標数字」を示すことが重要だ。数字を掲げることで、達成の成否が想定できる。仮に難しいとすれば、何を解決すべきかの課題も見えてくる。課題が見えれば対処の方法も模索できる。
以上は、極めて大雑把な捉え方であり、それだけでは心もとないかもしれない。もう少し専門的な部分として「FS」に目を向けることが別の視点だ。FSとはフィージビリティスタディ(事業可能性の検証)と言われるもので、前段で記した目標数字などの仮説に対して、それを裏付ける段階だ。以下、辞書的な記述にならざるを得ないが要点を列挙してみる。
ここでの目的は、仮説を検証して可能性を裏付けることだ。端的に言えば「これは大丈夫」と確信すること。そのためには、次の事項を検討しなければならない。第1は、市場の需要度を把握することだ。これまで、多くの場合に「市場のニーズを捉える」との言葉で言い習わしてきた。だが、旅館運営で最終判断を下す経営者が、どれだけ的確に捉えていたかには疑問の余地がある。かつて、ニーズの多様化への対応としてリニューアルやリノベーションが、活発に行われていた。一方で、施設やサービスの金太郎アメ化も囁かれ、設備やサービスの過剰競争の一因にもなってていた。うがった見方をすれば、ニーズと同時に市場規模も注視しなければならないことを示唆している。ニーズと市場規模の両者の兼ね合いは、もう少し精査する必要があったはずだ。専門的な分野といえばそれまでだが、これからのFSを考える上で重要なポイントになる。
第2は、市場に向けた戦略の展開だ。ポイントの項で掲げた数字目標の実現に通じる。目標に特定した市場への、訴求計画や訴求方法を検討する。そして3点目は、前記の2点を踏まえたシミュレーションとなる。この段階で、課題や対処方法などがみつかる。実際の設備投資やプロモーションに手をつけてからでは修正が難しい。その意味でシミュレーションが欠かせない。
つまり、仮説への肉付けともいえる検討段階では、経営に身近な事象から収集したプライマリーデータ、あるいは過去の統計調査や既存資料などのセカンダリーデータを活用することになる。
ここで特記しなければならないのは、自社の運営におけるディテールの把握だ。身近な運営データの解析について筆者は、大航海時代の帆船のログ(航海日誌)を引き合いに出し、「実態を記録して読み取る発想は、今日の経営にも通じる」と指摘した(第161回参照)。日々の運営記録(ユニフォームシステムによる運営会計)は、数字的なエビデンスに欠かせない。前回の稿で「三すくみ常態」に譬えたが、経営計画や事業計画を書き始めてみると、目標数字に対して現状の数字が貧弱に映るはずだ。
旅館ユニフォームシステムは、実践できない数字目標のための数字合わせツールではない。経営者が自信をもって第三者に示せる数字の追求ために、ディテールを把握して経営計画のエビデンスに成り得る数字と、課題解決の糸口を見出すためのものと理解してほしい。(つづく)
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