「儲けるための旅館経営」 その175
ユニフォームシステムと事業計画(上)

Press release
  2013.6.29観光経済新聞

旅館の死活問題にもつながるとされる改正耐震改修促進法への対応は、地震国日本で定められた法律へのコンプライアンスの意味だけではない。コーポレートガバナンスとして、企業経営の基本理念の遂行と受けとめることが、今日的な解釈といえよう。つまり、法令順守とともに、企業が果たすべき社会責任だと認識する必要がある。したがって、避けて通れない課題だと述べた。

また、コーポレートガバナンスを企業統治と解せば、日本では経営のトップと役員会による運営、管理・監督など企業運営の仕組み(統治機構)が果たす役割と認識できる(監査を除く)。そして、経営者の個性が企業運営に色濃く反映されている日本旅館では、まさしく経営者の認識の仕方に、それが委ねられている。

さて、現実的な対応として耐震改修の資金融資を前提にしたとき、融資先が納得できる中長期の経営計画が必要だ。同時にGOP15%を弾き出している健全経営であることも前提条件の1つになる。とくに、現状ではGOP15%以上の確保そのものが大きな経営課題になっている。言い換えれば、それをできていない現実がある。改修しなければ将来の経営持続が疑問視され、一方で当面のGOPが上がっていないことから、中長期の経営計画を策定する基礎数字も見えてこない。いわば、三すくみ常態に陥っている。

前回、自社の生き残りを賭けて、いち早く手を打つしかない。その場合、当然のことだが、耐震改修への資金を捻出しなければならない。再投資が可能なGOPを確保することに通じると述べたのは、まさにその意味にほかならない。また、中長期経営計画の策定で、数字的なエビデンスが欠かせないとしたが、それについては旅館ユニフォームシステムで運営のディテールを把握することが第一歩といえる。

今回と次回は、これまで経営を続けてきた経営者が、改めて経営計画書を策定するシチュエーションを念頭に、経営計画の必要性を考えてみたい。概ね次の6点に集約できる。

第1は、事業内容を客観的に把握すること。経営を続けてきたことで、ある種の既成観念ができあがっている。だが、現在の景況は、従来の景気循環論では対処できない長期の低迷下にある。客観的に捉え直す必要がある。

第2は、そうした現実と事業内容を再確認すること。文字に表すことは、状況を整理して理解を促す。

第3は、それによって問題点や課題が浮き彫りにされる。第4は、経営理念の明確化。意識の下層に眠っていたことが表面に浮かんでくる。初心への回帰につながる。

第5は、第三者への説明の容易化であり、これは第6の資金調達に向けた資料となることなどが挙げられる。極めて当たり前のことばかりだが、経営計画書の策定にはそうした意味がある。

つまり、本シリーズでは「経営者が意識を変える」とのフレーズをしばしば用いてきたが、「何のために変えるのか」の答えでは、ある意味の「しばり」がなかった。それがGOPのアップだったとしても、現状に妥協の余地が見いだせれば、あるいは「まだ耐えられる」と思い込むことで、GOP不足を耐えしのんでこられた。それは、現状維持が目的化した姿だ。多少乱暴な言い方で恐縮だが、結果として変える努力よりも変えない「易き」を多くの旅館が選択してきた。

だが、今般の法改正に対処しようとした場合、そうした「易き」では済まされない。是非にも変えなければならない。そして、他力でなく自助努力でこの状況を乗り越えなければ、自ら主導する未来像は描けないと認識する必要がある。それは、経営者のリーダーシップと言っていい。

もちろん、経営計画書や事業計画書の策定は、法改正への対処が本旨でない。伝統と文化に培われた日本旅館をいつまでも健全経営の下で持続させるためだ。それを持続を下支えするのは、健全経営の指針であるGOP15%以上を維持することにほかならない。    (つづく)