「儲けるための旅館経営」 その174
改正耐震改修促進法と向き合う

Press release
  2013.6.22観光経済新聞

前2回は、5月22日に成立した改正耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)の要点と対策を考えてみた。肝心なことは、地震国日本にとっての耐震は、どのような理屈をつけても避けて通れないということ。もちろん、成立した法律を後戻りさせることは不可能に等しい。ならば、自社の生き残りを賭けて、いち早く手を打つしかない。その場合、当然のことだが、耐震改修への資金を捻出しなければならない。再投資が可能なGOPを確保することに通じる。

旅館ユニフォームシステムは、これまで紹介してきたように、運営実態のディテールを把握し、実態に即した運営変更を図るための基本的な指標を明らかにするツールだ。いわば、健全経営に不可欠なGOP15%以上の確保に向けて、現状の問題点を運営会計の面から是正していくのが本旨だ。

前段で指摘した再投資の観点から対応策に目を向けてみよう。前回、融資を受けるにしても生半可な経営計画では難しいと指摘した。バブル期までの旅館経営者像は「大きな声と度胸」が「有能」の評を大きく左右していた。だが、それだけでは再投資の融資を受けられないのが、昨今の経営環境だ。緻密な計画性とともに、そのエビデンスを示せることが欠かせない。端的に言えば、融資先に示す数値的な証明だ。それを可能にするのが、旅館ユニフォームシステムによる運営会計の真骨頂と言っていい。

また、ここで問題にしている再投資には、2つの視点が欠かせない。第1は、ニーズの変化に合わせた施設のリニューアル。第2は、中長期的捉えた経営計画に基づく施設展開だ。この中で前者への対応意識は、当面の経営に直結することから、これまでも十分に対応してきた。多くの場合、施設の陳腐化を防ぐ意味合いから、10年前後のスパンで実施されてきた。もっとも、昨今の厳しい経営環境の下では、それが思うに任せない悩みが随所で表面化している。

ただ、こうしたニーズを捉えたリニューアルは、建物自体が堅牢に作られていたために、部分的に手を加えることが可能だったとも言える。前回の稿で引きあい出した「増改築を繰り返した複雑な構造である場合が多く、診断するのにかなりの手間が必要」との専門家の声だ。

問題は、第2点の経営計画に基づく施設展開が大きい。高速道路のトンネル崩落事故以降、交通インフラの経年劣化が一気にクロースアップしたが、建造物の耐用年数の問題は旅館も例外でない。旅館の建物は多くの場合RC(Reinforced-Concrete)だ。いわゆる鉄筋コンクリート造りだが、RCの耐用年数は、一般に60年といわれている。60年の根拠は、20年で1pの風化が進むとの想定の下で、最低でも鉄筋表面から3pのかぶりが必要とされているためだ。しかも、不特定多数が利用者する商業施設であることや、日本特有の有感無感地震の多発による目に見えない部分でダメージを受け、耐用年数はさらに短くなると想定されている。

例えば、新耐震設計基準が制定された81年を考えると、それ以前に建てられた旅館は、30年以上を経過していることになる。あと2030年と捉えるのか、すでに安全確保へ手を打つ時期なのかは、経営者の判断に委ねられる部分が大だ。

だが、再投資の2点目である中長期的な計計画の策定は、温泉ブームのころに建てられた旅館にとって、焦眉の急といってもいい。

中長期経営計画の策定でキーワードとなるのは、これまでの稿でも指摘した「減収増益」だ(第148回ほか参照)。少子高齢社会が進む中でのパイの縮小、あるいは他のレジャー活動との競合など、観光立国を目指す足元には、克服すべき経営課題が山積する。そうした課題解決で欠かせないのは、強い経営体質を下支えする運営の仕組みだ。同時に不動産業のコアである建物は、GOP15%以上を確保する健全経営でなければ維持できない。旅館ユニフォームシステムで運営実態を捉えるのが、現実対応の第一歩だと筆者は考える。  (つづく)