「儲けるための旅館経営」 その172
改正耐震改修促進法を考える(上)

Press release
  2013.6.8観光経済新聞

改正耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)が5月22日に成立し、11月には施行される。一部では「業界の死活問題」といった認識で関心も高い。これは「GOPを重視した経営のすすめ」の観点からも看過できない課題であることから、今回と次回は要点と対策を考えてみたい。

改正法の要点について、観光経済新聞はじめ一般紙報道から整理しておこう。対象となる旅館ホテルなどの特定建築物は、@延べ床面積5000平方b以上A1981年以前に建築された旧耐震基準の建物B耐震診断の実施と報告(15年末までに)C違反には100万円以下の罰金D診断結果の公表――などだ(観光経済新聞5月31日付から要約)。

地震国日本としては、理念として違和感はないものの、現実の場面に落とし込むと宿泊業界に突きつけられた課題であり、対応を迫られる旅館ホテルには死活問題につながる大事だ。このため業界として全旅連では、@地力公共団体の補助金は、国が示した補助率を拠出するよう指導をA27年来までに耐震診断の結果を公表することについては、名施設の進捗状況を勘案し、公表までに充分な期間の猶予をB耐震性に係る表示制度の創設については、営業に大きく影響を与えるため、一定期間の猶予をC旅館・ホテルを宿泊避難所として指定、防災拠点と同率の補助率を拠出D延べ床面積5000平方b未満の施設においても同率の補助金拠出を――などの要望を出している(同4月13日付)。

改正の背景を簡単に振り返っておこう。改正法の元となった耐震改修促進法は、阪神淡路大震災で多くの建物が倒壊したのを教訓に、9512月に施行された。旅館ホテルをはじめ一定規模以上の特定建築物について、所有者に耐震診断や改修に努めるよう求めた。もちろん、それ以前も耐震に向けた法律はあった。それが建築基準法だ。改正耐震改修促進法で「1981年以前に建築」とあるように、81年の前か後かは、新耐震設計基準が制定された81年の建築基準法大改正を境にしたもの。これらの改正は、大地震を契機にしている。81年の改正は78年の宮城県沖地震を受けてのものだった。したがって、東日本大震災が発生し、予測される南海トラフ大地震や首都直下型地震への備えとしては、異論をはさむ余地がない。

余談だが、国土交通省は昨年8月、築40年超(1971年以前建築)の旅館ホテルを対象に行った調査で、防火や避難に関する建築基準法違反が発覚した859棟のうち、今年1月末時点で是正されたものは12.8%にとどまり9割近くが是正されていないと発表している。同調査は、昨年5月に広島県福山市のホテルで7人が死亡した火事を受けたもの。改善されていない違反は@建物が耐火構造になっていないA非常用照明の不備B防火区画の不備などが多かった。スプリンクラーの不具合、自動火災報知器の未設置など重大な消防法違反も発覚している。もちろん、それらの不祥事はコンプライアンスの欠如した一部の旅館ホテルの話だ。

改正法と同調査は直結しないが、今回の改正法で特記しなければならないのは、耐震診断の義務化よりも、その後に構えている「診断結果の公表」だと筆者は受けとめている。所有者に対して耐震診断を義務付け、所管行政庁が診断結果を公表する。公表された結果をもとに、所管行政庁による耐震改修の指導・助言・指示と、指示に従わない場合は従わなかった旨の公表を行うという。また、倒壊の危険性が高い場合は建築基準法による改修命令などを行うとの方向だ。

前記の国交省調査では、9割近くが是正されていないとの発表にしても、館名は公表されていない。ところが、改正法では公表するし、適合の表示も創設される方向だ。これまでの業界対応に「業を煮やした」とは考え過ぎかもしれないが、旅館ホテルでは消防法の「マル適マーク」の取得で、多大な経営負荷を経験した過去が蘇ってくる。その意味で死活問題なのは確かだが、業界任せだけでなく個々の取り組みも必要だ。  (つづく)