前2回は、経営負荷の要因を計数から読み取る必要性を述べた。例えば、目印の無い大海原で自分の位置を確認するには、航海日誌(ログ)が大きな寄りどこになるとのと同様に、経営においても運営実態を把握するには、日々のデータを克明に記録し、適切な手法で適正に解析することが欠かせない。
しかし、記録と解析は「言うは易し行うは難し」なのだ。一般的な日本旅館では、多少の上下差はあるものの、価格帯が1万円以下から3万円以上など多様であることや、それに伴って提供するハード(主に客室)とソフト(主に料理)にさまざまな組み合わせがあるのは事実だ。仮に運営実態に合わせて詳細なデータを記録しようとすれば、それ自体に多くの時間と人手が必要になるとともに、解析自体が一筋縄でいかない。ただ、今日では解析にコンピュータが使える。日々の克明な記録(入力)が簡便であれば、解析はコンピュータに任せればいいことになる。この入力と解析の両者を極めて容易化させたのが、本稿で提起している「旅館ユニフォームシステム」なのだ。
これは、旅館の経理会計を抜本的に見直そうという提案にほかならない。もちろん、現状では各社各様に工夫を凝らしていることは認めている。だが、損益の輪郭は見えても、運営ディテールの把握はできていない現実がある(第157回「現行会計で見えない運営実態」参照)。
例えば、旅館の2大収入源である客室の売上と料理の売上が、現行の財務主体の会計ではボーダレスになっている。筆者がこれまで提起してきた料理運営原価(料理提供にかかわるすべての運営コスト)を弾き出し、それを客単価から差し引けば、とりあえず客室部門にかかわるコスト(客室運営原価)が弾き出せる。視点を換えて逆に発想すれば、料理運営原価が料理売上であり、客室運営原価が客室売上と考えていい。それに付帯売上を加えたものが、旅館の総売上となる。
実際のデータを当てはめてみよう。客室規模は約50室で、年商(総売上)5億円弱の旅館だ(下表)。ここでは、宿泊売上と付帯売上を加えた総売上に大別し、宿泊売上を料理運営原価と室料売上の視点で、それぞれを捉えている。また、宿泊売上を人数で割った平均宿泊単価は1万3000円強となっている。
それらの数字から導き出される結果として、宿泊売上に占める料理運営原価が55%、これを差し引いた客室運営原価(室料売上)が45%の数字を示している。とりわけ料理運営原価が55%であることは、かねて指摘を続けてきた「GOPの出る原材料・人件費の構成比(コストバランス曲線図)」(第144回参照)に照らしたとき、平均単価1万3000円強では、料理運営コストが45〜50%の間に収まっている必要がある。
したがって、同社の料理運営原価として示された55%の数字は、少なくとも5%以上のレベルでコストを過剰にかけていることが分かる。言い換えるとGOPがそのレベルで喪失していることを意味するわけだ。
ここで留意してほしいのは、旅館ユニフォームシステムが目指すところが、そうした財務管理的な計数のみを明らかにするのではないということだ。端的に言えば、宿泊売上を料理運営原価と室料売上に区分するだけでは、一応の目安は把握できても、それだけでは意味がない。むしろ、目安だけの効果では従来の会計方法に混乱をきたし、前回の稿で示した「原材料費vs人件費率の検討」に至らないと知る必要がある。(つづく)
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