前回は販売(収入)と管理(コスト+GOP)の計数がパラレルになっている状況を指摘した。若干補足すれば、収入面の室料売上と料飲売上の境界がグレーゾーンであるために、コストとして計上させる計数にもそれが影響を及ぼしている。低レベルの話で恐縮だが、客室の清掃は「室料売上のためなのか、料飲売上のためなのか」と言う疑問を突きつけられたことがある。当然のことだが、不動産業としては就寝が主たる目的だが、部屋出しで気持ちよく食事をとってもらう観点に立てば料飲業の範疇に入る。
これまで筆者は、旅館経営の構造改革で「モノの動き、ヒトの動き、こころ(意識)の動き」の3点に着目してきた。これは、チェックインからチェックアウトに至る客動線とそれに伴う作業について、所属部署によるタテ割りでなく、動線に沿った作業個々の実態把握と状況解析を提唱してきた。つまり、清掃と言う作業を冒頭のような捉え方でなく、単に「清掃作業」として捉える必要があるからだ(第105回「個々の作業の概念規定が重要」参照)。極論すれば、ここでは「何のための作業か」などと考える必要はない。「旅館運営に必要な作業」と位置付け、そう認識すればいい。それによって「誰が行うか」の割り振りは、運営の仕組みを再構築することで、おのずと定まってくる。
このような観点が、なぜ必要なのかを考えてみよう。前出の「何のため」は、属性と実体の議論に似ている。細部は省略し、ここでは、固有の性質や特徴をつまびらかにしたのが属性であり、そのものズバリを捉えるのが実体と定義しておく。例えば、お客にはそれぞれ個性がり、価値観も異なる。いわゆる感動にしても、千差万別だ。したがって、2万円の値打ちを求めるお客もいれば、1万円の範囲で済ますお客もいる。そうした客を相手にした時、属性に固執すると情や思い込みの混入する余地が生じてくる。接遇面での「お客さま」としての属性が先行し、実体が曖昧になってくるわけだ。
回りくどい表現になってしまったが、旅館ユニフォームシステムでは、数字による客観化が何よりも優先されなければならない。運営の実態把握は、数値化による客観的な認識がなければ不可能なためだ。運営の計数管理では、お客の顔を「1万円の顔」「2万円の顔」と言った数値化できる属性の範疇で捉える必要がある。これは、お客を軽んじる意味ではなく、単価に見合った範囲で「最大限可能なサービス」を見極める上から欠かせない。真綿でくるんだように扱ってきた「お客さま」の真綿を外し、本当の意味でウィン・ウィンになれるビジネスモデルの構築を目指すものだとも言える。
そして、ウィン・ウィンの関係で一方にある旅館では、数値化によって明らかになる収入に対し、コストとGOPの視点を明確にしていかなければならない。
それには「5つの鉄則」を筆者は掲げている。個条書きをすると以下の通りだ。@現状GOPと人件費の検証A人件費の改善B室料収入の増加C減収増益の検討D原材料費vs人件費率の検討――とななる。
運営の実態としては、人件費の現状を旅館ユニフォームシステムの手順によって検証し、改善へ向けて是正措置を講じる。GOPのカナメである室料収入の増加へ向けては、宿泊単価別の料理運営原価費用の見直しを行う。実体としての室料は、販売単価から料理運営コスト(食材原価や接客係の人件費)を差し引き、残った部分を室料相当額としている(第160回参照)。したがって、こうした見直し方法となっている。
また、減収増益については、@キャッシュフローはGOPであるA売上高が至上ではないB売上高が必須なのは自転車操業だ――と3点を強調しておく(減収増益については第147回参照)。そして、鉄則の最後にかかげた1項目は、すべての宿泊泊単価で顧客満足が得られる運営方法の見直しを意味している。これにより前述した「最大限可能なサービス」が実現する。(つづく)
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