「儲けるための旅館経営」 その161
経営負荷の要因を計数から知る(上)

Press release
  2013.3.9観光経済新聞

前2回の稿は「1泊2食で売り泊食分離で管理」をテーマに述べてきた。集約すれば、売る時はお客の馴染んでいる「売り易い方法」で販売し、運営面ではディテールを把握し易い方法で管理することだ。ここで留意すべき点は、販売手法と管理手法のあり方に視点を置いたのではなく、両者を客観的に捉えるのに不可欠な数値化にある。言い換えれば、販売(収入)と管理(コスト+GOP)の両者(実際にはGOPを別建てにした3者)を関連付け、計数化して捉えることにほかならない。しかし、現状は多くの場合に数値化が不十分で、実態が把握できておらず、経営の加重要因を洗い出すには至っていない。基本的なログが整っていない現実に直面する。

横道に逸れるが、丸太を意味するログ(ログハウスのログなど)は、最近ではコンピュータ用語のように思われているが、古くは船の速さを計る丸太のことだった。航行している船の船首の海上に丸太を落し、それが船尾に至る時間を計り、船体の長さで割れば速度が分かる。また、そうした記録を克明に記すことは、目印のない洋上で現在地点を知る手掛かりの1つにもなり、その日誌もログ(航海日誌)と呼んで大切なものとしてきた。対象は異なるが、実態を記録して読み取る発想は、今日の経営にも通じる。

本題に戻ろう。経営の加重要因を洗い出せない状況は、結果としてGOPの不足を招いている。しかも、GOP不足をデフレや志向変化などの外部要因に転嫁し、運営のディテールを把握していない実情を見逃している。そうした状況は、販売と管理の実態が計数の面でマッチングしていないと言い表せる。いわば、販売と管理の経理計数がパラレルの関係にあるわけだ。

例示として適正さには欠けるが、売価が100円の商品は、コストと利益を合算して100円なった場合と、市場の値ごろ感を前提にコストと利益を調整して100円にする場合がある。どちらの方法が理に叶っているかではなく、数値として捉えた場合に「売価・コスト・利益」が三つ巴であり、1つを増減させれば、他の2つにも必ず影響が出ることを理解しておいてほしい。旅館の場合、売価を下げればコストかGOP、あるいは両者が下がり、GOPを確保しようとすれば売価を上げるかコストを下げるか、コストを増やせばGOPの目減りか売価アップを図るかだ。当たり前過ぎる話なのだが、いずれにしても三者はからみあっている。

 販売と管理(GOPを含む)の計数は、交わることのない2本線のパラレルでなく、DNAモデルの二重曲線のようにからみ合っていなければならない。

 以上は前2回で解説したことの、さらなる解説のようになってしまったが、従前の経理手法から旅館ユニフォームシステムへ移行させることが、いわば経理計数への認識を改める必要が大きいからだと理解してほしい。例えば、高額客と低額客は、もてなしの基本スタンスで捉えれば手のひらを返したような差別はできない。だが、経営の数字で捉えれば1万円と2万円では、倍の差があるのも事実だ。食材やメニュー構成、接客対応などで相応の違いをつけたとしても、チェックインからチェックアウトまでの時間帯で、就寝時間を除いて共有する空間(大浴場ほかパブリック)で差をつけるのは難しい。これが、1泊2食の収入(消費単価)の中で、コストの適正な按分化が難い要因の1つとなっている。

 言い換えれば、旅館の収入を室料売上、料飲売上、付帯売上に大別したときに、室料売上と料飲売上の境界がグレーゾーンであることから、収入とそれに見合ったコストの按分を難しくしている(第159回参照)。したがって、不動産業としての客室やパブリックの維持管理、料飲業としての食事提供について、それぞれの収入とコストを精査する必要性が極めて大きい。経理上の計数面でそれを可能にするのが、ここに提起している旅館ユニフォームシステムなのだ。(つづく)