運営実態を計数的に捉えようとした場合、現行の財務会計的な数字で実態を把握するのは難しいと指摘し続けている。それは、前回述べたように日本旅館の収入構造でコアとなる客室売上と料飲売上の境が、ボーダレスでグレーゾーン化していることに起因する(図中の上段)。このため、いわゆる会計で計上される場合にも、運営実態に沿った区分けが難しく「一般販売管理費」で大ぐくりにされてきた(図中の中段)。
もちろん、館内の組織割りに沿ってコストの計上を図っているはずであり、その点は承知している。しかし、それだけで運営実態を把握していると考えるのは早計と言わざるを得ない。タテ割りの組織では、お客の時系列で変化するヒトやモノの動きに連動した「コストの変動」が見えてこないからだ。例えば、アイドルタイムが生じても、それを「いたし方ないこと」として多くは容認してきた。前回の稿で「矛盾をはらんだまま、接遇のソフト面をむりやり合致させている」と指摘した一例として、こうした実態がさまざまな場面に潜んでいる。
これに対して旅館ユニフォームシステムは、日本旅館の収入構造を的確に反映させたものだ。決して我田引水ではなく、運営実態を計数的に把握できる最善のツールと位置付けることができる。
ここで簡単な質問をしてみたい。日本旅館の3つの収入構造の中で「本日の客室売上は幾らになっているのか」と言うこと。旅館にとって客室は、コアコンピタンスであり、不動産業としてのカナメにほかならない。しかし、日本の社会からコンセンサスを得ている1泊2食のビジネスモデルの下では、多くの場合に販売単価から食材原価や接客係の人件費を差し引き、残った部分を「客室売上」に相当する額としている。
つまり、これが運営実態なのだ。冒頭の「運営実態を計数的に捉えよう」とした場合、財務会計だけでは難しかった実態把握が、管理会計の手法=旅館ユニフォームシステムで可能となる。結論から言えば、前述の客室売上を出すために販売単価から差し引いた諸コストを「料理運営原価」とすることだ(図中の下段)。
ただし、これには各業務の内実に照らした発想と仕組みの転換が欠かせない。いわば「区分け」と言ってもいい。それは、料理運営原価とは、何を指しているのかを知ることでもある。例えば、原材料はもとより厨房、ロビー・接客ほかさまざま業務が含まれる(「ディテールを把握して運営に反映」第149回-料理運営コストの業務区分図を参照)
旅館ユニフォームシステムで明確化された計数は、運営に潜むムリ・ムラ・ムダを洗い出して、健全経営の第一歩となる。当然の例えだが、単価1万円のお客に料理運営原価が5000円以上つぎ込まれていたら、GOPの出る余地はない。料理運営原価のどの部分が過剰であり改善の必要があるか把握できれば、次の打つ手はおのずと見えてくる。それが、実態の分かる管理会計だ。(つづく)
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