シリーズ第11回の稿では、当面の課題として@全体的に客数が減少する中でその対策をどうするかA低価格帯の団体を受けるか、あるいはコマ客対応の低価格帯商品の造成をするかB魅力ある料理をどのように創出するか――の3点を掲げ、第2点まで論じてきた。
これまでの2点から導き出せるものとして、旅館は一夜の宿泊空間を提供する不動産業である以上、室料が4500円以下では不動産業が成立しないと考える必要がある。実際の経営に携わっているオーナーからは、設備投資をはじめイニシャルコストやメンテナンスなどのランニングコストを考えれば、そんな額では採算が取れないと言う声も聞かれるが、現実にはそれさえも下回っているケースが多々ある。4500円とは、人的サービスや客室調度品などを最低限に絞ったビジネスホテルの室料(1室10平米平均)に等しい額だ。接客サービスを行い、夕食と朝食を提供する旅館が、室料として4500円以上を確保できなければ、15%超の適正GOPはもとより、経営そのものが成り立たないことになる。そこで、料飲サービス料(料飲率・料飲高=@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)のコントロールを、実際の旅館のデータを基に検証してきた。
一方、これまでも旅館の3要素は「施設・サービス・料理」と言われており、消費者の観点から捉えれば「温泉・安らぎ・料理」となる。つまり、第3の課題である「魅力ある料理をどのように創出するか」が、3つの要素の1つ「料理」であり、見方によっては評価のキーポイントにもなる。ところが、価格志向の強まるなかで低価格の団体(募集を含む)やコマ客を受けざるを得なくなってきた状況下では、経営の持続と魅力ある料理理提供のバランスが困難になっている。いわば、ないものネダリに等しい状況にある。
料飲サービス料は、前述のように大別すれば3つのカテゴリーに区分でき、さらに2番目の人件費は細分化できる。それを踏まえた工夫が必要なのだ。
そこで、料飲サービス料の観点から、新しい宴会方式を考えてみたい。結論からいえば、低価格帯(6000〜8000円)の宴会は午後6〜7時の間で、開始時間を30分刻みでコントロールさせてもらう方法がある。それは、宴会運営のを3分割を意味している。開始のあいさつから乾杯までは、客15人に対して接客係1人の態勢をとる。接客係の密度は、相応に高く感じられるはずだ。これが3分割の第1段階。次に後出し料理などの第2段階に移った時点で、接客係の一定人数を30分後にスタートする宴会場の第1段階に移動させる。最初にスタートした宴会場では、第2段階として接客係に代わって板前が登場する。この場合、厨房作業の平準化によって仕込みや盛り付けの大半を終わらせてあるために、天麩羅や暖かい料理などの最終仕上げを、宴会場で実演してみせる。会場内の接客係の人数は減っていても、板前による演出効果でカバーできるだけでなく、むしろ視覚的な部分で高評価につながる。第3段階は、止め椀や終了のあいさつなどで、再び接待係が戻って15人態勢になっている。
これらは、演出上のマジックにほかならないが、客の満足と接客係の人件費低減の両面で大きな効果を発揮する。1人の接客係が担当する客数は20人にも30人にも膨らむからだ。わずか30分の時間差をつけ、板前の演出というフェイントをかけるだけで、評価得点のアップも可能になる。この板前によるフェイントを、筆者は「座店」と名付けた。余談だが、正式な料理法の典座を逆転の発想で見直すとともに、語呂合わせのような部分もあるが、要は、儲けを出せて客の満足も得られる方式を創出しなければならない、と言うことの一例と受け止めてほしい。
視点を換えてみると、宴会とは直接的な接客業務であって、簡単には平準化できないが、後出し料理など平準化の可能な部分は徹底的に平準化することで、こうしたコストダウンのマジックが可能になるということだ。
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