「儲けるための旅館経営」 その159
1泊2食で売り泊食分離で管理(上)

Press release
  2013.2.23観光経済新聞

日本旅館の運営実態にフィットした会計手法として、旅館ユニフォームシステムを提案している。注目すべき点は多々あるが、今回は、利用客も旅館側でも馴染んでいる「1泊2食」のビジネスモデルに焦点をあててみよう。

いわゆるルームチャージ制の場合は、不動産業としての室料を明確に打ち出せる。会計の計上もシンプルで済む。同様に館内レストランでの料飲売上も、チョイスできるメニューに応じて価格設定が可能であるとともに、全員のニーズに応じる必要もない。好みのメニューがなければ館外で食べてもらえばいい。これもシンプルに計上できる。

ところが、温泉地の1軒宿でなくても、入浴の後は食事が待っているスタイルを大半の日本人は「当然」と受けとめている。テレビの旅番組のナレーションも「温泉でくつろいだ後は、宿の自慢料理で…」となるのが常だ。

余談はさておき、こうした1泊2食のビジネスモデルは、不動産業と料飲業を明確に区分できない矛盾を内包している。日本旅館の収入は、単純に区分けすると客室売上、料飲売上、それと付帯売上となる(図中の上段)。その中核となる客室と料飲の区分は、ハード面でもソフト面でもボーダレスになっている。昨今では「部屋出し」が特別な扱いのようになってきた一面もあるが、元来「卓袱台(ちゃぶだい)を寄せれば寝室に早変わり」といった日本の伝統的な生活様式の延長線上にあった発想だ。

いわば、客室の内装ほかは、寝室としてだけでなく食事場所としての価値も伴っている。視点を換えれば、ホテルの寝るだけの機能を満たす客室と、食事や居間にも成り得る居心地を確保するのとでは、建築に伴うコストも変わってくる。当然ながら、価格設定にも影響してくるわけだ。

ただし、これは提供する側の理屈であって、お客に納得してもらうのは容易でない。とりわけ泊食分離の価格表示をしようとすれば、極めて難しい事態を引き起こす。最初からB&B形式で簡素な客室を作っていたのなら話は別だが、既存の施設のままで転用すると、不動産業としてのイニシャルコストを回収できなくなるのも当然の帰結だ。

 そうした矛盾をはらんだまま、接遇のソフト面をむりやり合致させている面もある。それが会計面で端的に表れているのが「一般販売管理費」の項目といえる(図中の下段)。

 従来の財務会計では、料飲部門の食材原価を除くと、概ねコストは一般の販管費でくくられている。前述した客室売上、料飲売上、付帯売上中で、それぞれの人件費やその他の経費がどれだけかかっているかは、そこから見えてこない。室料売上と料飲売上の境がグレーゾーンで明確でない以上、当然の結果と言わざるを得ない。

 だが、これではシーズナリティや曜日波動の大きな日本旅館の、運営状態に合わせたコスト管理をするのは至難の業となる。単純なシフトの編成では対応が難しい。だが、複雑化すれば管理自体が運用上で余計な負荷を生じて、かえって足を引っ張ることになる。

 こうしたジレンマの根源は、運営実態を見え難くしている現行の財務会計的な運営計数の捉え方にある。その解決が急務だ。(つづく)