「儲けるための旅館経営」 その158
現行会計で見えない運営実態(下)

Press release
  2013.2.16観光経済新聞

前回、日本旅館で一般的に用いられている計数管理を概念的にイメージ化して示した(下図・再掲)。もちろん、会計の専門性に照らすと乱暴な見方かもしれないが、経営を計数的に捉える上で財務会計と管理会計を念頭に置く必要がある点を、ここでは明確にして行きたい。再三述べてきたように、財務会計的に輪郭をとらえるだけでは、運営のディテールに潜む問題点も見えないし、解決策も導き出せないからだと理解していただきたい。

まず、輪郭として原材料、一般販売管理費、GOPと大ぐくりにしてみると、原材料の多寡やGOPの過不足は大雑把に捉えることができよう。ただし、それは自社の財務的な側面であって、その原材料が他社に比べたときにどうなのか。とりわけ価格帯の競合する他社との比較が気になるところだが、それは分からない。仮に、単価に対する比率がどれほどか分かったとしても、お客の満足度の違いを知ることは至難だ。経営者や料理長が競合他社をすべて覆面調査することなど、それこそ荒唐無稽でしかない。

また、単価1万5000円の旅館(図中・上段)が3000円で夕食と朝食を賄っていたと仮定すれば、単価を1万2000円に下げた場合、計数的には単純圧縮(図中・中段)が最初に想定されることだろう。ちろん、その額面では従来のクオリティが維持できないことも俎上され、さまざまな工夫が凝らされる。単純圧縮でない方途も検討されるはずだ。しかし、財務的な計数の把握からは、それより先へ進むのが難しい。何を問題にすべきかが見えないためだ。

次に一般販売管理費では、いわゆる人件費(人件費/外注費)とその他経費に大別される。旅館に限らず一般にコストとしての人件費は、それが大きなウエートを占めていることから、コスト削減に直面すると真っ先に見直し対象となるのが常だ。「人件費が…」云々は、常套句の感さえある。果たしてそうなのかは次回以降に述べるとして、実態についての話を進めよう。

 原材料、一般販売管理費に続くGOPは、単純圧縮をすれば前2項同様に目減りする。しかし、返済をはじめ減らすことのできない要素が、そこには多分に含まれている(第81回「値引前のGOP確保が不可欠」参照)。

 ここに、経営上の最大矛盾が生じる。単純圧縮では立ちいかないし、GOPや原材料を現行維持(図中・下段)すれば、人的対応が一層難しくなる。この「三すくみ」の状態から抜け出さなくてはならない。

 そこで、計数的な実態把握が求められる。それが運営実態のディテールが把握できる管理会計であり、財務と管理をともに計上するために旅館版ユニフォームシステムが不可欠となる。それは、単価の引き下げだけでなく、現状維持やアップにも共通する会計システムなのだ。(つづく)