ユニフォームシステムは、米国のホテル経営の実務者が自ら考案したと前回の稿で記した。その意味ではホテル経営の実態に即している。だが、米国のホテルと日本旅館では、相違が多々ある。とりわけ「1泊2食」の形態が運営側にも利用者側にも定着しているのが日本旅館であり(第138回参照)、宿泊を主体にしたホテル流のユニフォームシステムでは、日本旅館の運営実態に対応しきれない。ならば、旅館の実態にふさわしい日本版ユニフォームシステムを作ればいいだけの話である。
だがその前に、「会計システムならば存在しており、これまでも活用してきた」「会計システムを換えたぐらいでGOPを好転できるとは思えない」「それこそ数字の遊びで複雑になるだけだ」との反論が返ってくる。
こうした反論には、明確に「否」と答えておきたい。前回「現実の会計システムでは、損益の輪郭が見えても運営ディテールの把握は難しい」と記した。会計には、財務会計と管理会計の2つがあり、これに対するそれぞれの認識に不明瞭な部分を少なからず感じる。筆者は、本シリーズの中で「運営実態の把握できる決算書」を問題提起したことがある。逆に言えば、現行の決算書は、よほどつぶさに解析しなければ、運営実態に潜んでいる問題点は見えてこない。
現在、日本旅館で一般的に用いられている計数管理を概念的にイメージ化してみよう(右図)。サンプルは、リーマンショック以前の平均単価が1万5000円の旅館だ(図中上段)。この時点では、単価に対してGOP15%を確保しており、原材料や一般販売管理費などを合計したコスト面でも大きな問題点は生じていなかったと仮定する。
ところが、リーマンショック以降の客数減少に対応するため、平均単価を2割落して価格志向のマーケットに対峙した。運営面では、原材料や一般販売管理費などコスト面でそれぞれ相応に削減する経営努力を図ってきたが、同様にGOPも減少する結果となってしまった(図中・中段)。「相応に」とは、項目ごとに多少の調整があっても、単価低減に対し按分的なコストの圧縮だった。
そこには、2つの大きなマイナスが生じている。1つは、当然ながら料理や接遇面でのクオリティの低下であり、グレードの低下を意味する。もう1つは、前回の稿で「数字のマジック」と記したGOP減少の現実がある。このGOP減少をカバーしようとすれば、さらに客数を稼ぎ出す必要があり、単価を一層引き下げる悪循環を生みだす。デフレスパイラルのメカニズムがそれだ。
理想は、単価を下げてもクオリティを低下させず、GOPの必要額もキープすることだ(図中・下段)。理屈ではそうなるが、従来の財務会計的な計数管理では、「どこで儲けて、どこで損をしているか」が見えず打つ手がない。新たな管理会計の必要性が、そこにある。(つづく)
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