「儲けるための旅館経営」 その156
旅館版ユニフォームシステムを

Press release
  2013.2.2観光経済新聞

今回からは、旅館版ユニフォームシステムを念頭に稿を進めたい。そのためには、現状の問題点を整理する必要がある。前回、デフレスパイラルから脱却を目指す上で、従前の「可能な努力は行ってきた」との認識を捨てなければならないと指摘した。これには2つの意味相がある。

1つ目は、従前の努力をさらに続けるのではなく、新たに視点を換えて捉え直そうと言う意味がある。問題点と認識していた対象が見当違いであったとすれば、乱暴な言い方で恐縮だが、可能な限りの改善努力も徒労に等しい。

例えば、市場の価格志向の高まりに合わせて、それに見合った低価格商品を開発し、運営手法も相応にスリム化するなどの対応を講じてきたはずだ。そのことは否定しないし、外部要因に対する各社の可能な限りの努力であったことも事実だろう。だが、結果が伴わなければ意味がない。その意味でGOPを確実に弾き出してきたのかを問うとき、数字(売上)の上がっていない現実のみを問題視して、基本であるGOPへの視座が希薄ではなかったのか。そこに見当違いがある。そのことを単純化すると、次の計算式に象徴できる。

1万円×100人=100万円

8000円×125人=100万円

単価が下がっても客数を増やせば売上は同じにもって行ける。これが数字のマジックに過ぎないことは、経営者なら誰でも実感している。しかし、現実の数字を上げるための「可能な努力」には、往々にして数字のマジックにはまり込んできた姿が否定できない。そこにGOP不足の根源が潜んでいる。

2つ目は、問題点である「上がっていない数字」の捉え方が挙げられる。結論から言えば、当期対前期といった比較ぐらいしかされていない。現実の会計システムでは、損益の輪郭が見えても運営ディテールの把握は難しい実態がある。そこでの数字をいじり回しても、言葉は悪いが「数字遊び」の域から抜け出すのは困難だ。まして、同業他社との比較などおよびもつかない。本稿のテーマである「どこで儲けて、どこで損をしているのか」が、およそ見えてこないわけだ。

これら2つの要因が相まって、悪循環のループが始まっている。前回、経営規範を明確に見据えることを挙げたが、そこでの要となるのが旅館版ユニフォームシステムと言っていい。また、規範の第1点として、「健全経営に必要なGOP15%以上の確保」を掲げた。これは至上命題と言っ過言ではない。GOPが確保されていなければ、不動産業の本旨である施設維持ができないのは火を見るよりも明らかだ。それは、旅館業を存続できないことを意味している。

そして、このことは自社だけの問題でないのも事実だ。経営の破綻した旅館は、日本旅館としての文化や伝統に対する認識の乏しい異業種の手に渡ることが少なくない。結果として、旅館宿泊の市場価格を混乱させ、温泉地や観光地としてのあり様にまで少なからぬ影響を及ぼしている。筆者が業界の叡智を結集して旅館版ユニフォームシステムの創出を訴え続けるのは、その辺りが大きな要因の一つになっている。

さて、ユニフォームシステムとは何か。詳細は順次述べていくが、システムと言っても装置やコンピュータソフトではない。売上や経費、資産などの計上にかかわる会計規準と理解すればいい。米国で考案されたホテルの会計規準であり、出資者へ財務状況を示すとともに、運営面での管理状況を把握する2つの側面を兼ね備えている。日本のホテル業界はもとより旅館業界でも導入が検討されてきたが、活用になると実例に乏しいのも事実と言える。

理由は、宿泊主体の欧米ホテルに比べて、日本では料飲部門のウェートが大きいためだ。つまり、共通の勘定科目などフォーマットだけを移入しても、活用できるテンプレートに成り難い一面があった。何よりも、米国のホテル経営の実務者が自ら考案した事実を、われわれも知って辿らなければならない。(つづく)