「儲けるための旅館経営」 その155
経営実態をシビアに捉えた対応へ

Press release
  2013.1.26観光経済新聞

自民党政権が3年3カ月ぶりに復活し、年初から株高・円安の好調な滑り出しを見せている。これがデフレスパイラルからの脱出となるか否か予断し難いのが、おそらく国民の共通認識といえよう。ただ一つ言えることは、景気の好転いかんにかかわらず、個々の旅館経営では従前と変わりなくGOP確保への自らの努力が持続されなければならないと言うことだ。

本シリーズでは、これまでも「GOPを重視した経営のすすめ」として、経営のさまざまなシーンを捉えた解析を行ってきたが、今回からは改めてそれらを体系的に整理してみたいと考えている。

巷間では、いわゆる「失われた20年」の言葉が常套語化している。バブル経済の崩壊によって価格破壊が生じ、それはデフレスパイラルとして悪循環のループへと陥った。旅館業界の一般論として20年前と現在を比べてみると、この間に売上がおよそ30%減少し、平均客単価も約30%低くなっている。言わずもがなと思われる経営者が少なからずいることだろうが、こうした「入り状況」(売上)状況に対して「出」(コスト)へどれだけ対処してきたのだろうか。この問いに対して、「可能な努力は行ってきた」と判で押したような答えばかりが返ってくる。だが、「コストを30%減じた」との答えは、ほとんどと言っていいほど無い。

この現実が物語ることは、まさしく「GOP不在」の経営状況でしかない。GOPの不足を補うためにコストを下げる。とりわけ手をつけ易い人件費にメスを入れると「人手がかけられない」との現実が立ちはだかる。10年以上も前から筆者が指摘を続けてきた旅館の「貢ぎの構造」(高単価客で得た利益を低単価客に補てん)は、価格志向の圧力が強まる市場原理によって成り立たなくなっていた。換言すれば、単価によるサービスビリティの変化への余力がなくなり、それが高単価客への魅力を減らす大きな要因となって、さらにGOP不足となる悪循環ループを惹起させてきた(下のイメージ図)。

さて、この悪循環の連鎖をどう断ち切るのか。答えは、「可能な努力は行ってきた」との認識を捨て、「1003070」のシビアな現実を直視して「70」で経営のできる仕組みを再構築する以外にない。これは、デフレスパイラルが止まっても変わらない経営の本旨だ。

細述は次回以降に行うが、そのためには@健全経営に必要なGOP15%以上の確保A経営環境の整備BCSとESを高める施設運営C単価に応じた接客の運営規準――などを目指した経営規範を明確に見据える必要がある。

また、これらの着手に優先順位はない。相互に関連し合っているとの認識から全方位的に捉えることが肝要だ。さらに、個々の旅館で相応に対処すべき課題のように捉えられがちだが、業界として大局的な観点から規範づくりを進めることも不可欠な要素といえる。とりわけ計数管理に向けて他社との比較を容易化させる旅館版ユニフォームシステムなどの創出には、業界の叡智を結集させることが不可欠だ。こうした比較の指針は、結果として個々の旅館の個性を際立たせることにもつながる。

いま、日本旅館の経営持続には、これらの取り組みが欠かせないことを改めて訴えたい。(つづく)