今回は、前回とは逆にGOPを確保できず「儲けていない(赤字)旅館」の要因を解析してみよう(下図・一部再掲)。
まず、結論めいた点から指摘すると、高額客の満足度が低い一方、低額客では相応の満足を得ている。結果として、低額団体やコマ客向け低額企画商品によって、表面的には一般的な客数減少傾向に歯止めがかかっているかにもみえる。
しかし、低単価の実体を検証すると、室料(@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP)そのものが確保できない「赤字体質」を、さらに助長させるものとも推定できる。同時に高額客と低額客の関係では、筆者が常々指摘している高額客で得た儲けを低額客に「貢いでいる構図」がみてとれる。さらに全体を捉えて言えば、薄利多売にすらなっていない。もちろん、一部の旅館にみられる低単価の「ぽっきり料金」を1本槍にしたところでは、相応の儲けを確保しているケースもあるのだが、今回ケーススタディとしてとり上げている旅館は、高額から低額まで幅広い層をターゲットにした従前の旅館だ。
まず、室料に視点をあてると、現在の単価3万円で室料2万円は、バブル時代の3万円超の単価を基にした室料を、そのまま継承している感がある。初期投資を考慮すれば当然の算定額になるのかもしれないが、単価が価格志向の下で3万円超を3万円に下げたものだと推測すれば、妥当性に欠ける面が否定できない。
これに対して、低単価の7000円で室料2500円、同様に8000円で3000円などは論外としかいえない。この点も推定の域を出ないが、かつて単価1万2000円で売っていた時点での室料を、価格志向の圧力から単価のみを7000〜8000円に引き下げたために、結果として室料の妥当性が崩れたものといえよう。
一方、料飲サービス料(料飲高・料飲率=@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)については、単価との整合にまったく欠けている。
単価3万円の料飲高(33%=8500円)は、一言でいえば低すぎる。例えば、3万円で宿泊していながら提供される夕食は8500円の内容にすぎない。また、これまでにも述べてきた接待係1人あたりの担当客数との関係を考慮すると、食事提供にかかわる人件費が、客1人あたり1000円を超えているのも否定できず、その分だけ料理の質(原価)も下げざるを得なくなってくる。
そうした半面、低単価では料飲率が6割を超えている。理由はいくつか考えられる。バイキングや専用のレストランなどの施設を保有しているか否かのハード的条件もあるが、前述の接待係1人あたり担当客数も大きく作用している。つまり、食事の提供方法で、価格志向に見合った単価の下降と料飲率の連動が、正常な価格判断とまったく逆転していると言ってもいい。これが「貢ぎの構造」を顕著に示している。
さらに朝食では、価格帯に合わせたコストの区分が大雑把にすぎる。これでは、最低価格(7000円)の層ぐらいにしか満足感が与えられない。
結局、比率的に少ない高単価層では、旅館の個別観光資源である料理で不評を買ってその層を減らし、室料の稼げない低単価層ばかりが増える。これでは経営が成り立たつべくもない。
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