「儲けるための旅館経営」 その148
「減収増益」へ向けた運営の変更を

Press release
  2012.11.10観光経済新聞

前2回は、80室で収容250人規模の旅館をモデルに、料理運営コストの観点から一般客の平均単価と団体客の単価を解析し、GOPの出ない原因を探った。そして、これからの方向性として「減収増益」のマネジメントが必要であることを提起した。

では、減収増益とは何か。収益とは売上であり、利益とは収益から諸費用を差し引いたものであることから、売上げは減ったが、それ以上に経費を減らしたので利益は増えたのが減収増益だ。当たり前すぎる定義であり、旅館の経営者を愚弄するのかと言われそうだが、もとよりそうした思いから減収増益の話をもち出したわけではない。

なぜなら、従来の発想による減収増益は、決して良いイメージの言葉ではなかった。リストラや経費削減などの結果として扱われてきた。言い換えれば「後ろ向きの経営姿勢」と捉えられている。バブル経済時代の増収増益という右肩上がり、あるいは売上が増えても利益が減る「増収減益」の言葉が使われることもあったが、いずれも底流には「拡大成長」の発想が常に横たわっていた。また、バブルの前にも後にも「低成長」の言葉が使われたが、それでも根底には拡大成長の発想があった。

しかし、バブル崩壊による失われた20年やこれからの10年、あるいは20年は、マーケットの成長拡大を簡単に望める時代ではない。むしろ、縮小を前提に対処する必要がある。認めたくはないが、それを常態と認めざるを得ない。したがって、ネガティブに捉えてきた減収増益を、ポジティブに受け止める必要がある。

それは、企業にとって是としてきた拡大成長の発想を、根底から捉え直すことでもある。企業から拡大成長を取り去ったときに、いったい何が残るのか。極めてイメージし難いテーマだが、結論だけ捉えれば「持続」することにほかならない。俗な言い方をすれば、生き残ることだ。未来へ夢を託すのではなく、託した夢の花が開く未来まで幹を維持し続けること。幹が絶えれば夢も何も残らない。要は右肩下がりの現実を冷静に受け止めて対処することにある。

誤解してならないのは、拡大成長を望めない悲観論の結果から、やむなく減収増益を受け入れるのではない。そして、何対して減収増益なのかと言えば、一般的には対前年との年次比であり、もう1つは他社との比較がある。ただし、他社との比較については、欧米のホテルにおけるユニフォームシステムのような会計指標の整っていない旅館業では難しい。業界として会計システムを構築すべき時期に来ていると筆者は考えるのだが、このテーマは機が熟すのを待つしかないので、ここでは触れないことにする。

さて、減収増益をポジティブに捉える姿勢の象徴として、企業のCSとESがある。従来の発想では、CSを維持あるいは向上させようとすると、そのしわ寄せがESに跳ね返っていた。賃金カットや過剰労働などであり、ゆえにネガティブなイメージがつきまとっていた。11月1日に厚生労働省が発表した若者の離職率によると、入社してから3年以内に離職する率は「宿泊・飲食サービス」が48.5%(大卒)の極めて高い数値を示している。理由はさまざまだが、収入や将来性が大きな要因になっているようだ。したがってESが重要だと短絡するのは避けるが、CSとESが企業の持続に欠かせない要点であることを考えると、この実態は見逃しにできない。

そこで、製造原価を基軸にした決算書づくり(第123回)をはじめ、経営のディテールを客観的な数字として捉えることで、減収増益への道筋が見えてくる。その根底となるのは、ここで提唱している料理運営コストによる現状把握でもある。冒頭の「利益とは収益から諸費用を差し引いたもの」を精査して、人件費20%シーリングを目指すことだ。それには、シフト運営やマルチタスクほか、経営実態に則した運営手法の構築が成否を握っている。ただし、運営の変更を伴うこれらは、一朝一夕にできる事柄ではない。   (つづく)