GOP重視の経営では、現状対応として次の2点が最も重視される。第1は、運営面で原価を確実に掌握すること。第2は、単価が低くても、相応の室料収入は確保する。この原則が崩れると経営は難しい。また、この2点は利益確保とコスト削減で相互に関連し合っている。だが、コストを切り詰めて利益を確保するか、あるいは利益を確保するためにコストを削減するといった択一の発想ではない。鶏と卵の喩ではないが、どちらが先かという性質のものでもない点に留意することが前提でもある。
現在、提唱を続けている「料理運営コスト」は、この原則を理解して実際の運営オペレーションを確立させる基礎となるものだ。なぜならば、旅館の経営では人件費が大きなウェートを占めており、この点については改めて説明するまでもないだろう。肝心なことは、どうやれば合理的なオペレーションが可能かであり、そのためには料理運営コストを詳細に解析しなければならない。
ただし、旅館経営での単価は決して単一のものではない。例えば、1万5000円の個人客もいれば、7000円の団体客もいる。どの客層にも満足を提供するのも大原則の1つだ(第142回「複数セグメントへの柔軟な対応」参照)。
今回は、80室前後で250人規模の旅館を検証してみよう(別表)。ある日の総宿泊客数は200人で、一般客が140人、団体客が60人だった。一般客の平均単価は1万円、団体は7000円。料理運営コストの観点で捉えると、平均単価1万円のコストバランスは40%前後が妥当な線だ。つまり、4000円が料理運営コストの適正値となる。また、7000円だと30%強で額面に直すと2100円になる(コストバランスのガイドラインは第127回の図表参照)。
さて、注目は団体の料理運営コストの内訳だ。当日の細目をみると、合計額は3195円で、比率にして単価の46%に達している。これについては改善の余地が多々残されているが、夕食の料理原価については、旅館宿泊の魅力の1つである食事との値打ち感を考えれば、いたしかたのない部分と言えなくもない。そうなると、食材原価を除く他のコストで工夫が必要となってくる。
各論は別の機会に譲って全体を俯瞰してみると、上表の当日売上額の合計に対して、全体で捉えた料理運営コストは41%になる。平均単価1万円がベースの経営では、おおむねGOPの確保できる範囲といえよう。筆者がしばしば指摘している高額客で得た利益を低額客の補てんに充てる「貢ぎの構図」には至っていない。価格の開きが大きくないのも一因だが、それ以上に一般と団体の比率に注目しておく必要がある。この事例で、客数が一般60人、団体140人に逆転した状況をシミュレーションすると、状況は一変する。一言でいえば「客数あれど利益なし」だ。その意味で料理運営コストの把握は、これからの運営に最大の指標を与えてくれると認識してほしい。(つづく)
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