「儲けるための旅館経営」 その145
コアコンピタンス合致した原価

Press release
  2012.10.20観光経済新聞

原価意識の確立は、内部的に経営面で大きな役割を果たすのは間違いない。同時に旅行業者に対応するときにエビデンスの1つにもなり得る。単価7000円の大口団体を辞退した事例(第142回)のように、「ゆえに当館では受けられない」と明確な理由を示す根拠になるからだ。無理を承知の要請であっても、受けては立ちいかない実態を相互に理解できれば、大局的に捉えたとき双方のブラスになる。旅館が立ちいかなくなれば、他に換えればいいなどと思う旅行業者は言語道断だし、よもやそうした発想はないと信じたい。

それはともかく、こうした原価意識については、さまざまな角度から捉えてきた。肝心なことは、従来の人件費や材料原価の観点では、これからは対応できないと認識することにある。背景には、旅館が健全に経営を持続するのに必要なGOPは、1520%のレベルで確保しなければならないことがある。

これを捻出するために「料理運営コスト」や「コストバランス50%」の概念を提唱しているが、今回は別の観点から捉えてみよう。その1つとして経営面で「プロフィットセンター」と「コストセンター」と言った概念がある(拙著『これが、答えだ。』観光経済新聞社刊を参照)。簡単に表現すれば、プロフィットセンターとは、プロフィット(収益)とコストが集計される部門のことであり、利益の増大を図るために収入と経費のバランスを強く意識した発想が基本となる。一方のコストセンターは、コストだけが集計される部門のことで、収益への意識が乏しいために「予算内」の発想から抜け切れない――と言った表現になる。

旅館にこの概念を当てはめると、これまでは大半がコストセンター的に受けとめられてきた。厨房では「原価」と言う言葉が使われるが、それ以上でも以下でもない。単価の15%や20%となど経営サイドで決めた範囲での工夫で対処している。接客部門では、決められた人数で可能な範囲のホスピタリティを発揮する。事務系は……と並べて行くと、プロフィットを稼ぎ出す部門は、せいぜい営業ぐらいしか見当たらない。それぞれの業務内容に照らすと「いたしかたない」と思わざるを得ないのが実態だとの思いが、そうした現状からの転換を阻んでいる。

だが、前述の「収入と経費のバランスを強く意識する」との認識に立てば、すべての部門がプロフィットセンターになり得る可能性がある。ただし、収益とコストのバランスを考えるといっても、小手先の対応でコスト削減を図る程度のバランス感覚では、効果は知れている。例えば、館内の電気をこまめに消す、事務部門でコピーに裏紙を使うなどの対処は、意識として大切であっても抜本的な意味でのバランス感覚には遠い。極論すれば、そこで削減された程度のコストは、接待や付き合いのゴルフや旅行で簡単に消し飛んでしまう。

つまり、利益につながるコストセンターの発想は、捉え方の意識や運営の仕組みを根本から見直すことにほかならない。そうした観点にたったとき、原価は新しい切り口から発想する必要がある。それが「料理運営コスト」の発想だ。プロフィットを念頭に置いたとき、旅館業のコア(核)は不動産業であり、そこから利益を生みだすのが本来の姿だ。しかし、日本での宿泊文化は「1泊2食」の形が一般化し、それが理に叶っている(第138回)。その結果、不動産業での集客手段としての料飲業が「コマセ」として大きな役割を担っている。バブル経済が崩壊し始めたころコアコンピタンスの視点が注目された。それは、他社がまねをできない、その企業ならではの力を意味している。コアの不動産業で大規模な施設改修で差別化が難しくなっていた状況下では、料飲部門にそれを求めたのも決して間違いではない。

大切なことは、両者を融合させながら不動産業でのGOPを確保することだ。それはコストセンターの発想から脱却して原価を捉え直すこと。材料原価も接客人件費も包含した原価=料理運営コストの発想にほかならない。(つづく)