「儲けるための旅館経営」 その144
業界人の叡智で応用論の確立を

Press release
  2012.10.13観光経済新聞

旅館が健全経営を持続していくためには、何をおいてもGOPを1520%のレベルで確保していく必要がある。この数字は何にも勝る前提条件と言っていい。これは、経営者ならば誰もが認識しているはずだ。ところが、それに対する具体的な運営施策において、黄金律ともいえる絶対的な回答は、一方で未だに見出されていない。

もちろん、経営論の観点で捉えれば、さまざまな運営手法が巷間に流布しており、それに従って成功した旅館もあれば、逆に窮状を深めてしまった例もある。なぜ、成功と失敗に分かれるのか。一言でいえば、それが「成功の黄金律」ではないからだ。言い換えれば、巷間流布している経営論は、ベーシックスタンダードであり、そのままでは決して個々の旅館に対応したアプリケーションにはならない。前回、ラック・レート(一般的な基準価格)の決め方に触れる中で、「投資額から単価を弾き出すことが多かった」と過去の例を指摘した。立地条件をはじめ関連したさまざまなアセスメントによって、マーケットのポテンシャルを精査して設備投資を行っていれば、今日のような極端な価格破壊に遭遇するケースを回避できたかもしれない。だが、そんな繰りごとは「たら・れば」にほかならない。

現状打破の答えにならない話を持ち出したのは、そこに学ぶべきヒントが潜んでいるからだ。黄金律が成り立たない大きな理由は、改めていうまでもなく旅館経営の根底に「日本の宿」としての経営を支える個々の特質があるからだ。1軒ごとに立地条件が異なり、そこから導き出された特質があり、それが旅館の日々の運営を通して消費者から選ばれる条件としての個性にもなっている。一方、多くの旅館が特定のベーシックスタンダードを採用して、資本力をはじめ自社で可能な範囲のみの「いいとこ取り」をアプリケーションと勘違いすれば、かつて指摘された「個性化の名の下での没個性化」を招くことになる。この轍を踏んではならないと学ぶことが、現時点では肝要だ。

余談だが、最近の報道の中に「B級グルメの偽物横行」が云々というものがあった。偽物とは真似の産物であり、ベーシックなものは、表面的だけであれば真似をしやすい。だが、B級グルメの「本家」は、そこに至るさまざまな試行錯誤を繰り返したプロセスがある。その過程こそが、地域や自分の店に最適なアプリケーションを生みだした。ベーシックの真似では本物にはならないし、同時に本物の価値を損なう弊害を撒きちらすことになる。これは対岸の火事ではない。

本題に戻ろう。あえて「自館にとって」とのことわりの下で、GOPを確保する運営手法の確立が焦眉の急である、と筆者は考える。それは、アプリケーション手法であり、その基点となるベーシックスタンダードは、旅館の経営者が知恵と個々の実態を互いに曝け出しながら、客観的に解析評価のできる第三者を加えて自ら構築していくのが筋だろう。

例えば、機会あるごとに提示してきた「料理運営コスト」の概念や「コストバランス」(下図)、あるいは運営面でのマルチタスクほかは、いわばベイシックスタンダードにほかならない。アプリケーションは個々のコンサルを通して行ってきた。これらの個別対応を広範に応用できるモデル化が、今後の展開で不可欠だと認識している。こころある経営者に、その必要性を訴えたい。(つづく)