「儲けるための旅館経営」 その141
GOPの確保が全ての始まり

Press release
  2012.9.15観光経済新聞

本シリーズでは、GOP重視の経営をテーマに掲げている。先へ進む前に現在の課題の背景を整理しておきたい。

企業は利益を出すのが大命題であり、それによって存続できる。旅館ならば、存続することで「日本の宿」の伝統と文化が継承される。存続しなければ、旅館の伝統や文化も途絶える。また、伝統は日常のすべてに磨きをかけて経営理念へ収斂していくものであり、文化は時代に合わせて現在より良いものを創造することだ。そこには、収斂と創造の相反するベクトルが作用している。ただ、この両者が並立しなければ、時代への対応が難しい。旅館は、両者を成すことで社会に認められ、「日本の宿」としての社会的使命を達成することができる。

経営論と文化論を融合させれば、こうした表現にならざるを得ない。そして、結論を一言で表せば「GOPを確保すること」が、すべての出発点だと断言できる。理想を掲げた経営であっても「武士は食わねど…」の古諺は通用しない。GOPが確かでなければ、伝統も文化も継承できないからだ。

当然とも言える話を記したのは、ある旅館経営者の言葉による。その経営者は、日本旅館の置かれてた現状を「淋しい状態」と言った。理由の1つは、地域の伝統的な旅館が、単価の面で二極化していることだ。裏返せば、単価の高い旅館は、経営面でまだまだ将来性がある。一方の低い旅館は、暗中模索の領域にはまり込んで抜け出せないでいる。現状維持が精いっぱいの状況だ。

そして、現実はさらに厳しい。単価面で優位にあった旅館が、生き残りをかけた価格政策を打ち出すケースが少なくない。そこにファンド系の安売り旅館が参入した。そうした価格圧力は、高単価旅館の次位だった旅館を、ファンド系かそれ以下の価格に押し下げてしまった。それが、伝統的な日本旅館を捉えた場合の、価格面での二極化現象だ。単価が下がれば、継承も難しくなる。

視点を換えてみよう。かつて、旅館規模の大小を問わず「値打ち感」が問われた。消費者は、施設や料理、接遇など旅館が提供するそれらの満足度において、「この値段ならば」との判断基準があった。さらに言えば、自分が消費する単価に対して常識的な基準を暗黙理にもっていた。したがって、基準を上回るプラスアルファがあれば、値打ちを感じることができた。それが失われた。選択肢が旅館個々の磨きあげてきた独自色でなく、多くの消費者が価格優先になってきたからだ。

俗に失われた20年と言われ、バブル経済が崩壊した後に始まった価格破壊のデフレスパイラルは、いまも続いている。さらに、失われた30年になるかも知れないと、一部では囁かれている。いずれにしても、現状の景況改善は先とみた方がいい。失われた20年の前、旅館は不動産業と料飲業のダブルチャージだった。そして、メインは不動産業であり、それを優位に導くための「コマセ」とも言える料飲業が、バブル景気の中で本末転倒となってしまった。

例えば、10億円の設備投資だから1泊2食3万円にするなど、旅館の都合優先の発想だ。しかし、同等の施設は周囲に多く存在する。不動産業としての施設だけでは集客が難しい。そこで、差別化の名の下にコマセや、接遇などコマセを撒く方法に差別化の活路を見出してきた。それが経営を肥大化させた。卑俗な喩だが「貧乏で身が痩せ細る」という。身体で肥大化した脂肪は、食が減ればエネルギーとして消費され、だんだん痩せて行く。手を打たなければ飢え死にする。旅館に置き換えると、バブル期のように栄養豊富なマーケットではない現在を生き残るには、粗食でも身に着く体質改善が不可欠だ。

不動産業として利益を確保するには、コマセを徹底的に見直さなければならない。ただし、日本旅館のビジネスモデルは、これまでにも指摘したように「1泊2食」が、旅館を選ぶ多くの消費者の理に叶っている。「料理運営コスト」の視点で経営全般を見直さない限り、未来への継承は難しいと知るべきだ。(つづく)