前回は、GOPを確保して「儲けている旅館」とそうではない旅館の実体を、両極とも言える2館のデータを基に、とりわけ顕著な部分のみを比較検証してみた。今回は、その両極のうち儲けている旅館の要因を解析してみよう(下図・一部再掲)。
一般に旅館の3要素は「施設・サービス・料理」と言われている。それを消費者の観点から言葉を換えてみると「温泉・安らぎ・料理」と言っていいだろう。温泉は施設に違いないが、それ以上に集客の面で独立した訴求効果をもっている。そして、施設の醸し出す豪華さや情緒など日常では味わえないハード面と、旅館らしい細やかなこころ配りといったサービスが相まって「安らぎ」を生み出している。さらに、料理は豪華さや情緒などの抽象的な印象とは違って、五感に対してダイレクトに訴えるインパクトをもっている。
視点を換えてみよう。観光資源の観点から捉えると、温泉地のバリューやはブランド力が、誘客面で大きく作用するのは言うまでもない。こうした観光資源とは別に「温泉(施設)・安らぎ・料理」は、個々の旅館が独自に創出できる「旅館の個別観光資源」なのだ。その個別観光資源の質が、儲けている旅館とそうでない旅館を分けている。バブル時代を振り返ってみると、そうした個別観光資源づくりを、いわゆる「差別化」と称して各旅館がしのぎを削っていた。
さて、そうした個別観光資源は、現状維持はもちろん時代とともに変遷する嗜好の変化、あるいは老朽化や陳腐化を回避するために相応の投資が常に必要とされる。儲かっていれば、特段の問題もなくそれを実行に移せるが、儲かっていなければ当然ながら悪循環のループにはまってしまう。
前置きが長くなってしまったが、GOPを確実にあげている旅館ではそれが可能であり、そうでない旅館との格差はますます広がっていく。その時の根源的な要因が、まさに室料の確保であり、それを可能とさせるのが毎回指摘している料飲サービス料(料飲高・料飲率)のコントロールなのだ。室料(@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP)を確保していれば、前述の「相応の投資」もできる。一方、料飲サービス料(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類)のコントロールは、極めて当然といえばそれまでだが、サンプル旅館のケースだと、高額客には単価の50%に相当する料飲率を打ち出し、低額客は21%にまで抑え込んでいる。
例えば、単価3万円の場合、料飲高(50%=1万5000)のうち、夕食が1万2000円を占めている。館内に複数の飲食施設もっている旅館のケースをみると、外来客向けメニュー表の最高額コースが、この1万2000円となっている。その意図は改めて説明するまでもないだろう。
一方、低額客の夕食は1000〜1500円で、バイキングやレストランでの定食メニューだ。第
10回の稿で示したように、こうした料理提供では接客係の人件費を極端に下げることが可能であり、ほかにも調理の工夫などで、品質(原価)を極端に操作しなくても、相応に満足してもらえる調理を提供できる。それには運営システムを再構築する必要があり、各価格帯で満足の評価を維持し、今日的な差別化政策による集客のカギがそれだ。
|