「儲けるための旅館経営」 その137
コストの総和として食事捉える

Press release
  2012.8.18観光経済新聞

本稿は、旅館経営で焦眉の急が利益の確保にあることから、「GOPを重視した経営のすすめ」として書きすすめている。それは、第1回の稿で「『儲かる』より『儲ける』姿勢を」と示したように、アグレッシブに攻めなければ利益は創出できない。受け身の姿勢では、淘汰される厳しい時代になっている。

この点については、大多数の経営者が日々の経営から肌で感じ取っているはずで、筆者が改めて指摘するまでもない。だが、「儲ける姿勢」とは、精神論の掛け声とは違う。経営実態を冷徹に解析し「ヒト・モノ・意識の流れ」を根底から見直す新しい運営の仕組みを構築することにほかならない。

このため本稿では、GOPの出る仕組みづくりを多様な観点から捉え続けている。結論から言えば、コスト削減の大きな眼目は人件費であり、1つの目標として「人件費20%シーリング」を提起した。また、それを可能とさせる仕組みとして「料理運営コスト」に着目し、社員のオールラウンド化(マルチタスク)による運営形態の刷新で、CSを維持しながら時代の希求でもあるESも満足させ、最も重視さなければならい経営の持続へ向けたGOPの確保を目指すものだ。

経営の維持すら厳しい時代に、そうした刷新は「夢もの語り」と受けとめられるかも知れないが、それは従来の発想に縛られているからだ。

極めて末梢的なことではあるが、「料理運営コスト」の一端を人件費と原価率の概念から捉えてみよう。例えば、1個のアワビを素晴らしい包丁捌きで刺身に調理した場合、シンプルに捉えればアワビの仕入原価と板前の人件費を合算したものが主なコストとなり、それに配膳にかかわる人件費ほかがプラスされる。これを踊り焼きにしたどうなるのか。少なくとも板前の人件費は不要だ。配膳にしても、事前にテーブルの上に置くだけなら誰でもできる。一方、客の満足度はどうか。調理されたアワビは、それ自体に値打ちこそ感じるが、他の素材と視覚的にはあまり変わらない。ところが踊り焼きには、目の前で調理が進行する演出効果が加わる。最終的な印象の度合いは違ってくる。

つまり、料理運営コストとは、旅館商品の一角を形成している「料理提供」の運営実態を解析するものだ(「旅館総体で捉えるコスト削減策」=第135回)。料理運営では、メニュー作成から材料の発注、検品、下ごしらえ、調理、盛付、輸送、配膳、給仕、下膳、洗浄、収納など幾つものパーツが組み合わさっているのが実態だ。これらをつぶさに解析すれば、単価とグレードに見合った料理提供がイメージできる。言い換えれば、本稿で掲げている「どこで儲けて、どこで損をしているのか」を洗い出し、その部分に改善のメスを入れるものだ。

 方法論として端的に言えば、「原価」と「人件費」に分類してきた従来の発想に対して、「原価+人件費(諸コスト)」からスタートすることだ。仮に前者は、1000円(原価)と500円(厨房人件費)で合計1500円だったとする。これを1100円と400円、あるいは1200円と300円にするのが後者の発想だ。

 ただし、前述したように料理運営は1連の流れによって形づくられているために、単なる思いつきや一部分のみをいじっても、結果は従来の仕組みを混乱させるだけでマイナスに作用してしまう。前出のアワビの踊り焼きでも、それだけを取り入れたのでは、削減できるはずの人件費が仕組みの中に残留してしまう。つまり、全体としての整合に欠ける運営変更では、期待した効果が得られないと知るべきである。

 では、なぜ全体の整合が必要なのか。旅館の商品は、不動産産業と料飲業の融合によって成り立っているからだ。そこには、不動産業と料飲業によるコストとGOPのバランスを考慮する必要がある。食事提供は、器だけを見せるだけのものではないし、料理は器がなければ供することができない。その当然の関係を考えれば、現状の商品単価について改めて思いを馳せる必要がある。(つづく)