マルチタスクは、人員構成でのあり方を見直すだけでは成立しない。オペレーションシステムとしての仕組みが整わなければ、実際の効果は発揮できないからだ。また、平均客単価をベースにしたサービス内容(グレード)の設定も、欠かせないファクターとなる。その時に料理運営コストバランスが問われることになる。マルチタスクにおける仕組みとは、単純な積み重ねではない。幾つもの要素がアメーバ―状に食い込みあっていると理解する必要がある。
本題に入る前に「構造と仕組みのイメージ」(右図)を捉えてみよう。一定の時間内に合計5つの作業ファクター(色の濃淡)が進行していると仮定し、縦軸の数字は要員数、横軸は時系列変化を想定している。前提条件として各作業は、決められた時間帯の中で行わなければならない。また、1人の人間が同じ時間帯に2の作業はできな。
こうした条件は、現実の場面で多々あてはまる。そうなるとアイドルタイム(上段斜線部)が必然的に生じる。これに対して仕組みを整備し(下段)、タスクをアメーバ―状に組み合わせると、縦軸の要員数は一気に減少する。
つまり、図の上下を比較したように、マルチタスクと言っても仕組みが構築されていなければ、従来のヘルプ発想とほとんど変わらない。人員の効率化は図られないことになる。
例えば、マルチタスクの一例として、次のシチュエーションを想定してみよう。売店に3人を配置していたとする。しかし、利用客が常に訪れているわけではない。混み合う時間帯とそうでない時間帯は、どこの旅館でも実感として把握しているはずだ。マルチタスクとしては、売店要員に代わるロビーアテンダントを配置し、混み合う時間には売店要員に、そうでない時間帯はロビー回り全般の業務にたずさわるなどの手法を講じる。ロビーアテンダントの名称や業務内容の位置付けは別にしても、すでに多くの旅館でこうした取り組みは実行されていると思う。肝心なことは、それは構造であって仕組み(システム)としての完成度が低い。前回述べた構造で変える、仕組みで変える、力量で変える必要性がそこにある。
構造を変えても、人が動く仕組みが変わっていなければ、それは単なる人減らしに過ぎない。人を減らせば、当然ながら作業者の余裕がなくなる。余裕とは、時間やモノが必要以上にあることと、精神的にゆったっりしている物心両面を指す言葉だ。余裕の欠如は、単純なヒューマンエラーを引き起こす要因の1つとされており、旅館ならばクレームの発生やCS低下につながると考えられている。だが、誤解してならないのは、仕組みが整っていない場合の構造改革であって、構造と仕組みが整合していれば、その懸念は無用だ。むしろ、余裕が生まれてCSやESは向上する。
前回、100室規模での社員定数について、105人を85人に削減し、さらに70人体勢を目指す事例を示した。この70人体勢が何を意味するのか。提供するサービス(グレード)にみあった体勢を想定したとき、必要接客要員は35人と弾きだせる。ほかに現場を預かる支配人、レイトチェックイン、電話、料理の後出し、夜警、施設関係などの要員が欠かせない。それらを合計すると20人程度が必要だ。計算上で社員定数を求めるには、必要接客要員の約1.6倍、このケースでは56人となる。70人体勢では、20%の余力を保持している計算だ。年間に10%程度の欠員が出たとしても20%の余力があれば、それに対しても問題ない。計画的な人員の採用も可能となる。(つづく)
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