「儲けるための旅館経営」 その128
減員でもCSやESは維持可能

Press release
  2012.6.16観光経済新聞

前回、コストバランスとして指標となる料理運営コストに触れ、適正指数としての「50%ライン」は、決して黄金律ではないと記した。大きな理由は、価格帯によって異なるからだ。そこで、料理運営コスト50%ラインで成り立つ規準範囲と、その上下の価格帯による可変性を模式化した図表によって示した。

また、算定の基準となる平均単価は、マーケット動向にも大きく左右される。その1例として、平均単価1万2000円をベースに算定した場合と、現状のマーケットに対応するために9000円に引き下げた場合を比較して示した。それは、本来1万2000円で売るべき商品内容を、25%オフの9000円に値引きしたことにほかならない。レベニューマネジメントとして「今日の宿泊を明日に売ることはできない」ための25%オフではなく、値引きした価格が恒常的な正価になっているのが問題だ。この25%は、単なるコスト削減などで容易に吸収できる額でないことは、改めて説明するまでもない。当然ながらGOPを大幅に目減りさせている。

また、平均単価の1万2000円は、イニシャルコストからランニングコストまでを、すべて勘案した結果として設定されたはずだ。言い換えれば、単価に対して提供するすべてのコスト内容は、いわゆるハード(GOPを含む室料)とソフト(料理運営コスト)に区分したとき、どちらも整合していた。当然ながら9000円では、コストの整合はあり得ない。

このうちハードに属する部分は、単価が変動しても可変要素は極めて少ない。可変的対応が可能な分野は、まさに料理運営コストなのだ。前回は、それをミクロ的に捉えたが、今回はマクロの視点に立ってみよう。これは、ミクロだけでは根本的な解決の道筋が見え難いからだ。とりわけ前回の稿で示したように、料理運営コストを9000円に対して40%、あるいは本来の単価である1万2000円の30%弱と言う数字と、中小企業庁ほかのデータによると旅館業の人件費率30%は、まったく整合しない。

だが、視点をマクロに置き換えると、整合へ向けた方向性が見えてくる。結論から言えば、タテ割り運営の人件費のあり方を、マルチタスクに変更してシステム的に運用することだ。

詳細は次回以降に述べるが、マルチタスクによる人件費のあり方を模式図化してみよう(下図)。ここでの前提は、実態をイメージし易いようにコンパクトにしている。事務系が3人、接客系が5人で総勢8人。事務系の3人は、1人1時間を1単位とした場合に、1日で合計24単位の仕事をしていることになる。

これに対して事務系を1人増員して24単位の仕事をさせた場合、8単位の余剰が出る。これを、第一印象の好感度を上げる出迎え(図表中のX時間帯)に振り向けると、対外的な接客系の人員が1人増員できる。しかも、5人だった接客系が3人で賄えるようになり、本来の総勢8人体勢は7人体勢に減員している。そこに労働強化はない。ESでの問題もなくCSの向上も図れる。

これがマルチタスクの目指すところであり、料理運営コストの低減を可能にする。さらに、出迎えほかの分野を含めたシステム構築で、全体効果が拡大するのだ。(つづく)