料理運営コストについては、コストバランスの適正指数として「50%ライン」を提示してきた。ただし、どんな価格帯でも50%が成り立つ黄金律ではない。ここでの50%とは、数年ほど前のいわゆる「値ごろ感」と言われた客単価1万2000〜1万7000円程度の範囲を基準としたものであり、それ以上でも以下でも比率は50%より低くなる。そして、2極化が進んだ今日では、40%程度が妥当な数字かもしれない。とりわけ、価格の2極化が進む中での低価格帯では、極めて厳しい数値認識が求められる。なぜならば、すでに行ってきた設備投資の返済や一般販売管理費などを考慮すると、値ごろ感と言われた価格帯がそれらのベースになっているからだ。言い換えれば、単価が下がっても返済額が低減するわけではない。GOPを含めて確保すべき数字(室料)は変わらない。そこで、料理運営コストと室料に2大区分する経営指標が不可欠となる。
例えば、平均単価1万2000円がベースで50%の料理運営コストであれば、GOP15%を含んだ室料として6000円が弾き出せる。ところが、単価が9000円になると室料としての50%は4500円になってしまう。1500円の減少は、算定の基となった1万2000円に対して12%強のマイナスだ。一般販売管理費などが変わらなければ、マイナスはGOPと相殺され、数%台のGOPに落ち込んでしまう。もちろん、実際にはコストの削減を試みて落ち込みを抑えているはずだが、それも限界にきていることは想像に難くない。
同様に料理運営コストも1500円の減少となる。料理運営コストの50%では、厨房作業から料理輸送、接客、下膳、食器洗浄に至る料理提供にかかわるすべての人件費が含まれる。その50%の中でそれらの人件費は、半分以上を占めている。残りが食材原価と備品補充などだ。減少した1500円をどこで吸収するかが問題となる。人件費の削減や食材原価の単純引き下げは、そのまま接遇や料理のクオリティーに跳ね返ってく。
こうしたジレンマは、大半の旅館経営者が痛いほど実感しているはずだ。だが、平均単価が下がったことでの前述した一般的な対応策は、すべての面でマイナスのベクトルでしかない。
改めてコストバランスに戻ろう。算定ベースの単価1万2000円に基づく室料は6000円。単価が9000円に下がったと想定し、室料も50%でスライドさせたのでは、前述したとおり意味がない。そこで、一般販管費で10%弱程度の節減をして5500円に引き下げる。すると料理運営コストは、9000円から5500円の室料を引いた3500円となる。この数字は、9000円の単価に対して40%を割り込むものだ。料理運営コスト50%の4500円に比べると厳しさは一層つのる。
さらに言えば、施設やサービス形態などのベースとなっていた1万2000円の単価で3500円を捉えると、料理運営コストは実に29%にしかならない。また、前回例示した中小企業庁ほかのデータによると、旅館業の人件費率はおおよそ30%となっている。これでは、原材料費や備品補充はすべて賄えない結果になってしまう。「現実には不可能だ」と経営者の多くは言う。
前回まで提起していた「人件費20%シーリング」と矛盾するように思うかもしれないが、視点を抜本的に変えると別の景色が見えてくる。それが基本から組み直すマルチタスクなのだ。(つづく)
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