前回に続いて人件費の「20%シーリング(最高限度)」のアウトラインを考えたい。これまで、旅館経営の解析にはミクロとマクロの両面が不可欠だと述べてきた。例えば、出迎えから呈茶までの一連の流れを15分と推定し、客単価と接客人件費の関係を見た(第121回「単価とリソース配分のバランス」参照)。そこでは、たとえ15分の時間であっても相応の人件費が費やされている。それは、接客業務であろうがアイドリングタイムであろうが同等の「時間コスト」が、それぞれ等価でかかっていることを再認識するためだ。ただし、これは経営状態をミクロに解析した場合の数値であって、現実に即した場面とは異なる。実際には、複数の業務に同時進行で対応し、あるいはお客の集中や閑散などの外的要因にも左右される要素が大きい。そうなると、瞬間を捉えて云々するだけでは1日、1週間、1カ月、1年と言ったマクロの現実には、ダイレクトにあてはめられない。
だが、言葉の適否は別にして、それによって「どんぶり勘定」が是認されるわけでもない。シビアな経営環境下では、改めて言うまでもなく緻密な係数管理が求められる。その場合に必要となってくるのは、状況に左右されない定数的な指標だ。本シリーズで提唱している「料理運営コスト」もその1つにほかならない。
料理運営コストを客単価ベースのリソース配分として捉えると、単価によって比率が異なる。1万2000円から1万7000円の範囲は、おおむね50%の配分になるが、この単価範囲の外では高くても低くても比率が下がる。この点は再三記してきたことから、適正な配分率が不可欠と言うことにとどめたい。
さて、料理運営コストの概念は、宿泊単価に対するリソース配分(単価に対してかけられるコスト)であり、目指すところは「価格連動サービスビリティ」の確立と言える。その場合に指針の1つになるのが、客単価と接客人件費の関係だ。1人の接客係が何人のお客に対応するかによって、当然ながら人件費率は変わってくる(下表)。
例えば、単価1万2000円では、接客係1人がお客10人に対応したときに、人件費率が20%となる。算定のベースは接客係人件費(法定福利を含む)と料理運営コスト50%中の人件費配分だ(第121〜123回参照)。単価別に20%分岐点をトレースしてみると、1万5000円の小間客で2人1室の現状に照らすと、客室係1人が8人対応(4室)となり、現状の業務実態と大きな食い違いはないだろう。だが、実際には多くの旅館で単価1万円を割ったあたりから、ここでの指標が崩れている。いい換えれば、健全経営に必要なGOP15%を成り立たせる料理運営コスト概念の不在だ。もちろん、そこには人件費率20%シーリングなどあり得ない。
客単価と対応客数別人件費率は、それ自体だとミクロ解析に終わるが、オールラウンド化などマクロに対応するうえで不可欠な視点でもある。この指標によって、旅館個々の繁閑差に対応しながら、GOP確保と同時にCSやESを満たす仕組みづくりが可能となる。(つづく)
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