前回は、当面の経営に不可欠な人件費の考え方として「20%シーリング(最高限度)」について触れた。また、ここでのシーリングは、人件費を軽減するのが主たる目的ではなく、CSやESの適正化を前提にした仕組みを再構築することで、結果として人件費が軽減されてくるとの前向きな発想が大切だ。いい換えれば、仕組みを再構築することは、それ自体を企業の目的に据えるのではなく、企業の至上命題であるGOP創出の手段と位置付けることだ。視点を換えると、人件費削減を目的に仕組みの「いいとこどり」だけをしても、現場に混乱を招くだけで効果は上がらないどころか、CSやESへの逆効果で悪循環のスパイラルに陥ると知る必要がある。
各論に入る前に、人件費20%シーリングが必用な背景を考えておこう。これは、改めて指摘するまでもなく、価格志向の高まりで宿泊単価が下落し、現状での人件費率が経営を圧迫していると言うことだ。表現を換えると、いわゆるデフレが作用している。若干横道に逸れるが、今回はデフレについて簡単に整理してみよう。
というのも、いま、世間一般にインフレ待望論が囁かれ始めている。デフレとインフレには、それぞれ功罪があり軽々に論じられるものではない。だが、お客が買わないから値段を下げる、逆に欲しがるから値段が上げるなどの需給関係から単純に捉えられている。その結果、デフレと不景気をイコール視している向きがある。「デフレだから不景気なのだ」と。では、インフレならば景気はよくなるのか。過去のバブル経済期を振り返ったとき、過度なインフレが経済観念を麻痺させて、その時のツケが現在も残っているケースは少なくない。デフレにしろインフレにしろ、将来へ「負の資産」を残さないことが、現在を生き企業に課せられた大きな使命であることに変わりない。
何やら大上段に構えた話になってしまったが、要は消費全般で価格志向の圧力が増すなかで、デフレ価格に対応しながらも相応に利益を上げ、巷の不景気を感じさせない業態の企業が一部に存在している。その事実は真摯に受け止めなければならない。いい換えれば、デフレを逆手にとって、自ら景気を創出しているといえる。ただし、そうした企業の真似を推奨しているわけではない。業態が違えば方法論は異なる。
デフレの象徴とは言いすぎだが、ワンコインショップの繁盛振り見て真似たところで意味がない。ワンコインで売ってもGOPの出る商品企画や開発から、製造、物流、販売などミクロとマクロの両面で捉える必要がある。例えば、物流とは商品輸送だけを指したものではない。倉庫などのストックヤード、あるいは輸送や保管に適したパッケージングなど、多岐にわたるコスト管理をトータルに捉えることにほかならない。
そして、人件費の削減にもデフレとインフレに関連した側面がある。バブル崩壊の直後に吹き荒れたリストラの嵐と新卒採用の手控えは、後に社員の構成ピラミッドをいびつな形にしてしまった。例えば、日本の人口をマクロに捉えると、団塊世代と団塊ジュニアの2つの膨らみがあり、その世代が働き盛りの時は問題ないが、盛りを過ぎると社会保障ほかの高齢者対応が一気に浮上してくる。将来に起きるであろう事態であったにもかかわらず、往時は何ら手も打たずに先送りしてきた。そのミニチュア版が企業の一般的な人事施策にも見てとれる。
これらの問題は、旅館の現状にもあてはまる。人件費削減が求められる状況下では、新たに「人を雇う余力はない」のが本音だろう。だが、旅館業の伝統と文化を継承するには、いびつな社員構成ピラミッドは避けねばならない。CSのバラツキも生じる。これに対する答えとして筆者は、適正な社員定数の見定めを提唱してきた。その答えは、適正社員数で運用できるオールラウンド化のシステム発想だ。いまこそ、それが必要だと痛感している。(つづく)
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