「儲けるための旅館経営」 その122
出発はリソース配分内での対応

Press release
  2012.4.28観光経済新聞
前回は、宿泊単価と経営リソース(ヒト・モノ・カネ)の関係の一端を考えてみた。この観点から改めて料理運営コスト(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などを包括したもの)を捉えると、必要なコストの総額は、人件費や原材料費の明細を積み上げて合算したものでないことが分かるはずだ。例えば、8000円で販売する旅館商品にかけられるコストは、一般的な販売管理費、初期投資の回収や返済、それにGOPを除いた金額の範囲でしかない。単純計算をすると3200円のリソース配分にしかならない。

また、経営リソースの一般的な定義は別の機会に譲るとして、最近は情報もリソースに加えられている。さらに筆者は、時間もリソースの1つに加えたい。時間は、ある意味で人間の活動そのものであり、リソースであるヒトに付随している。だがヒトを単なる人材として捉えるだけでは、十分といえない。人材面だけで捉えると、従来の人工(にんく)計算のように頭数が先行して、現場からあがってくる「この人数ではできない」などの常套句に悩まされることになる。いわゆる「積み上げ合算方式」の泣きどころが、そこにある。現場の声を認めれば、結果として適正なGOPを確保できない状況につながってくる。

こうした問題点は、ヒトに付随している時間の観念が見落とされていることに大きく関係しているといえよう。例えば、一定の仕事量をこなすのに、1時間必要な人間もいれば、30分でも同等の仕事をこなす人間がいる。人材を能力の面で捉えると、そうした多種多様の人間が混在するのが現実だ。

では、時間の観念がどうかかわってくるのか。冒頭のリソース配分と同じ発想が、そこに必要となる。前回例示した料理運営コスト50%換算の内訳では、人件費が1時間当たり455円、15分当たり114円であったリソース配分からスタートすることになる。俗な言い方をすれば「その金額でこなせ」となる。

例えば、単価が8000円になると適正なGOPを稼ぎ出せる料理運営コストの比率は、単価の40%になってしまう。内訳の人件費では、1時間455円が220円に、15114円が55円にしかならない。出迎えや呈茶、案内などを同じスタイルで提供しようとすれば、接客係は倍の客数に対応しなければならなくなる。そうなると前述の「この人数ではできない」の悪夢が蘇る。

だが、15分間55円のリソース配分でも、仕組みやスタイルを変更することで状況は一変する。ファーストインプレッションを形成する15分間で、接客係1人が仮にお客40人に対応できれば、配分されるリソースの総額は2200円となる。わずか15分で人件費換算の1時間以上を果たしたことになる。呈茶や案内でなく「流し込み」の形になり、従来よりもCSダウンが懸念されるところだが、リソース配分が大幅に増加した分を原資に、CSアップにつながる還元策が新たに講じられる。

リソースに時間の観念を持ち込むことで、アイドルタイムやダラダラ作業を解消し、効率的な運営の下地ができる。それは、CS面での還元策だけでなく、時短や処遇などのES面にも大きく寄与する。そうしたシステム化として筆者は、オールラウンド化の提唱を続けている。(つづく)