経営では、マクロとミクロの視点が相互の関連性のもとで捉えられなければならない(第119回)。また、これを踏まえて料理提供の一例を示し「どの戦場(例えば価格帯)で戦うのかを明確に見定めたストラテジー、料理や接客、施設運営を仕組みとして整合させるシステム化(タクティス)、それを受けた板前の工夫(ミッション)がその料理を生みだした」(第120回)と解析した。
肝心なことは、自社の経営戦略を打ち立て、それに適合する戦術レベルのシステムを組み上げ、シーズン波動に対しても経営的に無理のない作戦行動がとれる現場を作り上げることにある。これまで述べてきた料理運営コスト(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などを包括したもの)について、上記の戦場と経営リソース(ヒト・モノ・カネ)の配分を捉えてみる。
与件として次の数字を想定する。戦場は、平均宿泊単価が1万3000円の市場。リソース配分で大きな比重を占める接客については、接客係1人の人件費を月額25万円(法定福利を含む)とし、週休2日を勘案して1日1万2000円と概算する。
宿泊単価1万3000円を自社の主戦場とした場合、GOP15%を確保するための料理運営コストは、これまで述べてきたように50%に収めなければならない。平均単価が2万円超や1万円以下では、50%よりさらに小さな数字で算出する(詳細は「3階層運営でコスト50%を図る」第44回参照)。
単価1万3000円に対しては、投入できる料理運営コストの総額が6500円となる(右表)。平均的な内訳は人件費が3640円、原材料が1950円、消耗品などのその他が910円となっている。ただし、人件費については、接客係だけでなく調理、料理輸送、下膳、洗浄などの各要員が含まれている。したがって、接客サービス人件費に3640円全額を配分できる意味ではない。内訳は各社各様の配分が行われて、接客方法をはじめ他社との差別化や個性の創出につながっている。あくまでも目安としての数字だ。
また、与件に関連するものとして接客係の勤務実態を捉えておく必要がある。一般的には、午後3時から10時の7時間と朝食の1時間で、合計8時間になる。そして午後の分は2つのブロックに大別できる。3〜6時の前半3時間は、備品や料理のセッティングと出迎えなどで、6時以降が夕食とそれに付随した接客業務となっている。
さて、料理運営コスト50%換算の内訳で、1時間当たり455円や15分当たり114円の数字は、リソース配分として充当できるコストと考えていい。一方、接客係1人の1日当たり人件費を1万2000円とすると、1時間当たり1500円や15分当たり375円と弾き出せる。
ここで15分を例示的に算出したのは、1組のお客を出迎え、呈茶や案内に必要な平均的な時間を想定したものだ。リソース配分として単価に対して114円は、接客係人件費の375円に照らすと、約3.3倍になる。これは、個人客の1室当たり利用人数と符合する。いい換えると、単価が1万3000円であれば、接客係が前半3時間の部分で、5室前後を担当してお客15人前後に対応できれば、GOP15%を確保するための単価とリソース配分は整合する。
また、前半3時間と後半4時間の接客システムを見直すこと(例えばオールラウンド化)によって、リソース配分量の縮小や時短効果なども考えられる。逆に単価に対する料理運営コストが不適切でリソースの配分が過剰になると、当然ながらGOPが出ないことを意味している。(つづく)
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