GOPを重視した経営のすすめ−120
作戦と戦略のポジション明確に
前回、GOPアップと運営コストを戦略的な視点で概論的に述べた。その先へ進む前に、もう少しだけ現状を検証しておきたい。戦略論には、戦略→戦術→作戦の3つのレイヤー(階層)があるのは前述した通りだ。問題は、どのレイヤーの話なのかが、往々にして錯綜していることだ。
異業種での話だが、こんな場面に遭遇したことがある。テーマは、プレゼンテーションを行う際の「情報の共有化」だった。複数の営業マンが、それぞれの顧客へ行うプレゼンテーションの実際を、体験的に話し合っている場面をイメージしてほしい。販売先の話もあれば、新しいマーケットの開拓、コンピュータソフトを駆使したビジュアル表現など議論百出。白熱した議論の結論は、個々に作っている企画書を互いに公開しあって、ポイントを書き変えるだけで全員が活用できるフォームを作ろうという話で終わった。ここでの「情報」とは、いったい何なのか。テーマの割にはお粗末な結果だが、情報の概念を云々する以前に、どのレイヤーに軸足を置いているかが定まっていない。そこに根本的な問題がある。
こうしたミスマッチとも言える会議風景は、決して笑うに笑えない現実として周囲にいくらでもある。筆者に限らず話を進める場合、注目の喚起やイメージの容易化のために例え話を挿入するケースはよくある。ところが、それによって論点があらぬ方向へ進んでしまうことも往々にしてある。例え話は、極めて身近な事象だからだ。そのために、本論を理解しないまま「分かった気になる」と言った人間も決して少なくない。
こんな他愛のない話を記した理由は、分かったつもりの「いいとこ取り」が百害あって一利なしだと言えるからだ。今後の稿の中で具体的な事例を示す機会も多い。その場合、どのレイヤーなのかを理解してほしい。その例え話として、厨房の改革で人件費を大幅に下げ、その分を原材料費に回して好評を博し、GOPもしかるべく確保している旅館が実際にあることを紹介する。
この事例を解析してみよう。仮に同館を訪ねたたとしても、見える部分(ミッション)は出される料理の姿だけだ(下図参照)。確かに手のかかっていない料理であり、旅館経営のプロの目で見たとすれば、厨房で働いている板前の少なさぐらいは推測できるかもしれない。だが、ミッションの背後には、どの戦場(例えば価格帯)で戦うのか明確に見定めたストラテジー、料理や接客、施設運営を仕組みとして整合させるシステム化(タクティス)、それを受けた板前の工夫(ミッション)がその調理を生みだしたなど、各レイヤーの姿までは見えてこないだろう。
つまり、いいとこ取りの単純模倣からは何も生まれない。むしろ、現状を混乱に招く危惧の方が大きい。視点を換えれば、例示した旅館の料理手法を単純に真似たところで、戦う戦場が違っていれば、そのミッションは通用しないと言うことだ。
料理運営コスト1つにしても、現場での対処の背後には、それが可能となる仕組みが必要だし、運営全体を通して表出されるグレード感までも含めた戦略発想が求められる。各レイヤーの整合を目指すのが、旅館の構造改革なのだ。(つづく)
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