前回指摘したように、一般論として客数の減少傾向にある現在、それに見合った態勢づくりが急務だ。この場合、各部署が必要としていた要員の合計が100人態勢だったとすれば、それを80人態勢にすれば単純に20人の削減になる。
余談だが、タテ割りの弊害は、人員運営がその部署の業務枠内から脱せないことだ。どんなに切り詰めたとしても、タテ割の中では「これだけの人数は必要」との結論に縛られてしまう。しかも、その算出で前提条件になるのは、せいぜいピークの若干手前ぐらいしか想定できない。かつて筆者は、稼働率70%が健全な状態を保つ重要条件だと述べてきたことがある(詳細は拙著「赤字が消える、旅館が変わる」参照)。要は、稼働率が恒久的に変化しないものなら問題はないが、オンとオフの期別落差が大きな旅館業では、人員ベースをどこに定めるかで人件費効率が大きく変わってしまう。
稼働率70%をベースに想定した場合の要員構成だと、10〜20%増ならば現有体制での努力でも、なんとかこなすオペレーションも想定できるし、逆に同程度の減だとロスも最小限で食い止められる。ただし、これは旅館自体の経営体力に余力のあった時代の発想だ。バブル崩壊、価格志向の強まりなど、ここ10数年の変化で経営状況は大きく様変わりし、人員計画にも大幅な修正が必要となってきた。しばしば引き合いに出すセリフだが「可能な限りの合理化もリストラもしてきた。これ以上の打つ手はない」というオーナーの嘆きに、筆者は常に「待った」をかける。
冒頭の100人を80人にどころか、さらに減じても日常の運営には最小限の負担で乗り切ることが可能だからだ。30人減らしても100人だったときと大差のないお客さま評価を維持することはできる。それが、前回指摘したオールラウンド化にほかならない。
ただし、このオールラウンド化は直接的なサービス関連部署のみの発想では、これにも限界がある。予約や経理部門を含む全館、全要員のオールラウンド化が必要であり、それにはタテ割りを超えた教育システムと運営オペレーションがなくてはならない。また、1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)などへの取り組みも必要だが、これは稿を改めて再術する。
肝心なことは、「儲けること」を前提にタテ割りによる単一志向ではなく、客動線と連動した形の「ヨコ糸」をどのように紡ぎだし、「儲けられる旅館」という織物に仕上げるかだ。その大命題が経営者に課せられている。
次に当面の課題第2点は、低価格帯の団体を受けるか、あるいはコマ客対応の低価格帯商品の造成をするかだ。この課題では、料飲サービス料(料飲高)が単価に対して、どれほどの比率を占めているか(料飲率)を弾き出すことが第1歩だ。仮に、8000円の単価に対して4500円の室料(@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP)を必要とした場合、料飲高は3500円で料飲率44%になる。
一方、料飲サービス料の内訳は、@原材料費A人件費(調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄など)B消耗品類に大別できる。その中で接客を捉えると、接客係1人1万円の人件費で、20人を接客した場合は客1人あたり500円だが、10人だと1000円に跳ね上がってしまう。低価格の団体で3500円の料飲サービス料から、接客で1000円を費やしてしまえば、原材料をはじめ他のコストは2500円しか残らない。原価のかけ方は経営方針や板長の采配にもよるが、現行のサービス内容(料理全体のクオリティ)を維持しようとすれば、かなりの苦戦を強いられるのは必定だ。しかも、建物減価償却費やGOP(15%以上)を考慮すれば、室料4500円では十分といえない。
そこで、低価格帯の団体やコマ客対応の低価格帯商品の造成では、従来と異なる接客方式を創造する必要がでてきた。その手法をして団体宴会向け座店や会場ローテーションなど単価に即した方法が考えられる。
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