GOPを重視した経営のすすめ−119
戦略から捉えたGOPとコスト
これまで4回にわたって料理運営コスト(@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などを包括したもの)の観点から、GOP15%の確保へ向けた基本的な考え方を述べてきた。価格志向の圧力が高まり、従来の運営仕組みでは対処できない状況に置かれているためだ。
経営では、マクロとミクロの視点が相互の関連性のもとで捉えられなければならない。喩の良し悪しは別として、経営が生き残りのための戦争であるとすれば、勝つための戦略論が必要になる。その戦略論は、3つのレイヤー(階層)から成り立っている。ストラテジー(戦略)、タクティス(戦術)、ミッション(作戦)の3つのレイヤーであり、どこか1つのレイヤーだけが突出していだけでは戦争に勝てない。不謹慎な例えだが、都市を一気に壊滅できるような戦略兵器は、たった1人の敵に向けて使う意味がない。逆に、膨大な数の敵に対して、作戦兵器のライフル1丁で立ち向かう愚もありえない。日本のかつての戦争は、敵を一気に制圧する掛け声はあっても、1兵卒が小銃1丁と精神論で戦闘を遂行するようなものだった。それらは、作戦であって戦術ではない。
余談のついでに、旅館のサービスビリティの1つである接客を考えてみよう。接客マナーの向上という点では、各館各様に対応しているはずだ。結果として、利用客が「いい仲居さんに当たった」と喜ぶ声が聞かれる。裏返せば、そうでない思いの客もいるということだ。そうした接客は、いわば作戦レベルであって、十人十色のお客すべてに満足を与えるのは難しい。システムとして運営の均一化を図る戦術的な発想が、そこには欠けている。サービスマナー研修を行っても、それは接客の作戦場面で使う武器を手入れするようなものだ。決して戦術レベルの話ではないし、自己満足とは言い過ぎだが、GOPの視点で捉えたときの効果的な1策とは考え難い。
ここでいうシステムとは、十人十色や繁閑の差があっても、状況にあわせて十分な対応(CS)のできる要員配置が可能となる仕組みのことだ。しかし、「コスト削減でそんな余裕などないし非現実的だ」との答えが返ってくる。その答えが戦術の欠落を認めたことになる。さらに、何のための接客なのかを考えるのが根本的な発想であり、それが戦略の基となる。例えば、接客をほとんどレスするビジネスホテル的な経営形態がある。あるいは、食事提供時の接客を簡略化したバイキング形式もある。これらの点は、改めて説明するまでもないだろう。運営の形はさまざまあるが、要は経営を成り立たせて生き残るのが企業の使命である以上、接客レスも戦略の1つとして成り立つ。
いい換えれば、どの戦場で戦うかを明確にすることで、戦略が生まれる。その戦略のバックボーンとなるのが経営理念だ。これがけは経営者の専権事項であり、余人には委ねられない。以上の話は、現実の運営現場から3つのレイヤーを遡っていった考え方だ。実際には、経営理念から戦略→戦術→作戦へと総論から各論へ落とし込んでいくのが理論的には筋が通る。
そうなると、コスト削減で人手が足りないから接客をレスするなどの発想は、作戦現場の事情でしかないのが明白だ。それは、戦場を見極めず闇雲に戦いをしているのに等しいと言える。例えば、戦略として平均単価1万円の戦場で戦うと方向づければ、接客や料理原価にどれだけのリソースを回せるかは、おのずと弾き出される。筆者が提言を続けているGOP重視の経営とは、戦場を想定して勝つための戦略を立て、それを戦術レベルのシステムに組み上げ、繁閑にも無理のない作戦行動がとれる現場を作り上げることだ。
GOPアップの効果的な施策の1つとして料理運営コストに着目し、さまざまな観点から検証を続けているわけだ。もちろん、運営コストはこの項目だけではない。それは、お客の動線をつぶさに検証する必要性を示している。(つづく)
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