前回は、GOPの出る料理運営コストとして、宿泊単価1万2000円でGOP15%以上を目指す3500円の料理運営コストを捉えてみた。そして、夕食で接客係1人が対応する客数を10人と20人のケースでシミュレーションを示した。今回は、料理運営コストがGOP15%を確保できる3500円を、別の観点から掘り下げてみよう。
本シリーズでは、「GOP重視で接客に可変性を」(第111回)、「居酒屋と料亭で何が違うのか」(第112回)で、価格帯によって提供するサービス内容の可変性に触れてきた。つまり、料理運営コスト3500円をブレークダウンすると、どのような提供方法で、どの程度の食材を使用するかは、おのずと制約があることが明白だ(下表参照=前回表で料理運営コストが想定内に収まる20人対応)。
前段として、一般的な外食産業の実態を紹介してみよう。外食産業では、FC(フードコスト=原材料費)とLC(レイバーコスト=人件費)を合わせたFLコストが、経営状態を判断する指針になっている。そして、FLコストは個店とチェーン店では若干異なるが、50〜60%がボーダーラインといわれており、60%を超えるとレッドゾーンに入る。当然と言えばそれまでだが、原材料費と人件費の合計が増えれば、利益は反比例するからだ。したがって、FLコストの的確な把握と運用が、店舗の経営と維持に大きくかかわっている。
こうした捉え方は、本シリーズで料理運営コストと表しているものと、概念的に近似だ。逆に旅館では、接客人件費として大ぐくりに扱ってきたことから、FLコストとしての把握ができすに、料理運営コストを曖昧にしてきた感がある。
改めて料理運営コストのブレークダウンを考察しよう。単価1万2000円に対する3500円は、比率でみると29%であり、外食産業のFLとは大きな差が出ている。しかし、温泉をはじめ各種パブリックスペースの維持運営を考えれば、妥当な数字といえよう。課題は、理論的に弾き出した夕食の原材料費1200円と諸人件費合計1450円の按分が妥当か否かだ。言い換えると、そこに旅館個々の持ち味を出す要素が潜んでいるといえる。
前述したように外食産業のFLコストは50〜60%で、中間の55%を例にとると、FCとLCはそれぞれ30%と25%といわれている。ただし、これは平均化した場合で、消費単価が高い場合だと20%と35%で、LCに重点を置いているケースも少なくない。いわば人件費を高めて接客密度を濃くしているケースだ。
このことは、旅館の原材料費と諸人件費の関係でも、共通点として見出すことができる。原材料費を高めて内容で料理アピールするか、あるいは接客の密度を高めて情緒的な感動を訴求するかだ。前述した「旅館個々の持ち味を出す」という要素がそこに見出せる。
ただし、GOP15%以上を目指すには、単価1万2000円ならば3500円のしばりがある。これを度外視すれば、経営的に及第点は得られないし持続にも陰を落とす。前回示した接客係1人の客対応数10人は、LCの観点からも見直す余地がある。言い換えれば、料理提供の形態を20人に対応できるように見直すことだ。
また、1例として言えることは、厨房人件費のあり方がある。宴会場やバイキング会場での「座店」の演出だ。この場合の厨房人件費は、客室係人件費の一部に転嫁できる。演出自体は、ことさら目新しものとは言えないが、GOPの観点から捉え直すことで、現状とは異なる結果が見えるはずだ。そうした意識の改革が、いま必要とされている。(つづく)
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