「儲けるための旅館経営」 その116
GOPの出る料理運営コストA

Press release
  2012.3.17観光経済新聞

前回に続いてGOPの出る料理運営コストを考えよう。宿泊単価1万円の例示は、計算上で分かりやすいためだが、今回は1万2000円を想定してみる。ただ、この1万円という数字は、消費者の過半数が1回のレジャー活動で消費する際の上限とも言われている。いわば、現在のマーケット値ごろ感だと受けとめておく必要もある。というのも、宿泊単価1万円でも家族4人の宿泊旅行を想定すれば、交通費や見物、昼食など支出全体では1人1万5000円超になり、4人だと6万円超になる。一般的な家計の観点から捉えれば、決して低廉な額といえない。加えて、昨年の大震災以降は「絆」が注目されており、家族での旅行を見直す傾向も一部に出始めている。定着するか否かは別として、そうした社会のムーブメントも捉えた対応が必要なのかもしれない。

さて、単価1万2000円で適正なGOPが確保できる料理運営コストを弾き出すと、3500円がボーダーラインとして算出できる(下表参照=前回の再掲)。単価に対し約29%だ。

毎回指摘をしているように、料理運営コストとは、料理そのものにかかる原材料コストや厨房人件費だけでない。厨房から食事場所までの料理輸送をはじめ、食事後の下膳、さらに使った食器の洗浄、消耗品や損耗品の補充などを含む。また、客室係や接客にあたる要員の人件費をも含む広範な概念として捉えなければならない。逆に言うと、従来の人件費の概念は、館内に働くすべての人件費として括られていた点を、抜本的に考え直さなければ、料理運営コストの概念は理解が難しい。

かつて、経営者の悩みを問うと必ずあがってきたのが「人件費が高くて」と言うフレーズだった。バブル崩壊以降の悩みは、「単価の下落に歯止めがかからない」へ移ってきた。だが、これらのフレーズは、帳簿に表れた数字や、永年の経験則に照らした勘のようなものが根底になっている。合理的な説明と裏付けに欠けている。GOP重視の観点で捉えると、問題点は同根といえる。

結論から言えば、多少辛辣かもしれないが、宿泊単価1万2000円に対しては、料理運営コストを3500円にとどめる発想も仕組みもない。そうした経営実体が、悩みとして言わせているに過ぎない。前回、現実には「それでは料理提供のクオリティを維持できな」との話を紹介したが、できるか否かの判断は、経営者の専管事項だ。現場は、それを可能にする方法を工夫すればいい。ただ、それだけでは武器を持たずに戦場へ行けと言うのに等しい。武器は、料理運営コストの発想に基づくマネジメントシステムの構築だ。

もう少し具体的に落とし込むと、宿泊単価1万2000円に対して料理運営コストは3500円、これを夕食と朝食に区分けすると、夕食は2700円、朝食は800円になる。かつて、食材原価の比率は、宿泊単価の20%といった話もあった。それに合わせて単純計算をすれば、2400円となる。従来発想だと残りは1100円だ。これでは厨房の人件費ぐらいしか出てこない。これに対して、食事提供の接客人件費を3500円の料理運営コストにインクルーズさせるのが、GOPから捉えたマネジメントにほかならない。

つまり、前述した人件費も単価の下落もGOPの観点から同根であると捉えれば、ここで提起している料理運営コストの概念をもつことが、解決へのスタートラインだと理解できよう。(つづく)