「儲けるための旅館経営」 その115
GOPの出る料理運営コスト@

Press release
  2012.3.3観光経済新聞

前回、宿泊単価1万円での料理運営コストは、適正なGOPを確保しようとすれば2500円がボーダーラインとして算出できると例示した。若干、横道に逸れるが、この1万円の金額は何を意味しているかを考える必要がある。それは、マーケットでの値ごろ感という視点にも通じる。もちろん、かつての2万円超が当たり前に受けとめられていた時期に比べると、まさに隔世の感もあるのだが、これも1つの状況として受け入れる必要がある。いい換えれば、現在の状況下で単価2万円前後を自社のセグメント(ほしい価格帯)でメイン据えることは、マーケットの2割ぐらいのお客だけを相手にしていく方向に等しい。特化したブランド力で経営が成り立ち、GOP1520%以上を確保できるのなら問題ないが、そうした旅館は希有と言っていい。

つまり、自社セグメントだけに固執していては、運営がきわめて厳しくなっている。この点は改めて述べること自体が陳腐だろう。単価1万円台の戦略を云々するのは、従来ならば「なりふり構わず」と揶揄されるような営業姿勢に受けとめられてきた。たが、現在では揶揄の対象でなく、むしろ「胸を張って」とは言い過ぎだが、積極的に取り込んでいかなければならない。また、そうした取り組みは、結果として業界の再編につながる可能性もある。イニシャルコストの低いファンド系の安売りに対して、本来の旅館業が培ってきたクオリティをベースに据え、レベニューマネジメントなどの手法を駆使した場合、そのマーケットへの切り込は脅威になるはずだ。レベニューマネジメントとは、在庫(客室)を常に的確に把握し、各時点で対象となるセグメントに対して、タイムリーな販売時期に適切な価格で販売するものだ。

本題に戻ろう。宿泊単価1万円の例示は、1万円のセグメントに特化する意味ではない。旅館業では多様な価格帯に対応する必要があるからだ。肝心なことは、どのセグメントにおいてもGOP15%超になるマネジメントを組み立てることにある。それには、ここ数回にわたって提起している「サービスの可変性」が不可欠だ。その可変性で最初に注目しなければならないのが料理運営コストであることは言うまでもない。

詳細は次回以降に述べるが、宿泊単価によって料理運営コストは可変する(下表参照)。前稿で示したように、料理運営コストとは、@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などを包括したものだ。これに対して室料とは、宿泊関連人件費、販管費、建物減価償却費そしてGOPを包含している。

例えば、単価3万円での料理運営コストは1万5000円で50%を占めている。これに対して1万円では25%の2500円にとどまる。単価1万円で50%の料理運営コストかけてしまえば、室料としては5000円しか残らない。施設の維持に必要な宿泊関連人件費、販管費、建物減価償却費は、単価が変わっても、それらは基本的なコストとして軽減が難しい。結果として適正なGOPが確保できないことになる。極めて単純明快な論であり、異論ないはずだ。

ところが、現実には「それでは料理提供のクオリティを維持できな」との声が現場からあがる。現状維持と改善のその堂々巡りが続く。だが、現実は容赦がない。サービスの可変性を、料理運営コストの観点から取り組む必要があるのだ。(つづく)