GOPを重視した経営のすすめ−114
GOPと接客は表裏の関係に
前回はサービスと料理提供の可変に目を向ける前段として、GOPを常にモニタリングする仕組みの必要性に触れた。逆に、GOPを確保する視点から捉えると、宿泊単価に連動したサービスと料理提供の可変が求められる。これらは表裏の関係にある。表裏とは、1枚の紙のようなもので、表をめくれば必ず裏がある。表や裏だけでは、紙としてこの世に存在しえない。旅館は、サービスや料理提供を紙の表に譬えるならば、GOPは紙の裏にほかならない。
哲学書の存在論のような話になってしまったが、ついでに有名な「われ思うゆえに、われ在り」を俗っぽく解釈すると、GOPをあげて経営を存続できる「われ」(旅館)があって、はじめて「われ」としてサービスや料理提供ができ、存在が成り立つ。考えたくない喩だが、経営が成り立たなく「われ」がなくなれば(廃業)、サービスや料理提供なども考えなくてすむ。つまり、この世に存在しなくなる。
それはさておき、こうした表裏の関係は、目に見える部分の背後に対の関係があることを示唆している。ここでは、あえて「絶対にある」と強調しておきたい。本シリーズで提唱を続けているオールラウンド化は、表面だけをみるとマルチタスクと目に映る。したがって、経営者の多くは「うちでも実行している」と答える。だが、マルチタスクが確実に機能するには、綿密に計算された運営システムが背面にあることを知らなければならない。シフト運営1つにしても、作業者個人の力量を人事考課はじめ多様な観点から、適切に把握していなければ、提供するサービスクオリティで機能不全になりかねない。また、そうした実例は枚挙に暇がないほどある。
こうしたオールラウンド化をはじめ、マネジメントをなぜ見直す必要があるのか。もちろん、GOPアップのためだが、経営環境の厳しさが高まることはあっても、緩むことが当面は考えられないのが最大の要因だ。オールラウンド化は、いま最も必要なサービスにかかわるコスト削減に寄与する。ただ、この場合のサービスコストの捉え方は、さまざまな角度から可能だ。
例えば、「居酒屋と料亭で何が違うのか」(第112回)で示したように、料理運営コストとも大きく関係している。というのも、料理運営コストは、@原材料費A人件費=調理、料理輸送、接客、下膳、洗浄などB消耗品類などを包括したものとして捉える必要があるからだ。従来は、料理の原材料と厨房人件費でくくられるケースが多かった。部屋出しを主流に考えると、食事にかかわる接遇は、いわゆる接客サービス分野として捉えられる。つまり、料理運営コストとして接客サービスは含まれていない。
しかし、ニーズの多様化と言われ始めたころから、食事提供の形態も多様化した。食事処やレストラン、バイキング会場など提供場所もさまざまだ。当然ながらバイキングやレストランは、1カ所で多くの客数対応が可能であり、対応する接客要員も部屋出しより少なくてすむ。いい換えれば、人件費の軽減策にほかならないのだが、一方でワンランク下のグレード感がつきまとう。こうしたグレード感とお客の満足度は、価格志向の強まった現下では、決してイコールでないことも発想を変える上で欠かせない。つまり、人海戦術で接客の頭数でお客の満足を得ようとするのでなく、さまざまな演出や内容から満足を引き出せれば、料理運営コストをさげても問題はない。
1例として単価1万円での料理運営コストは、GOPを確保しようとすれば2500円がボーダーラインとして算出できる。その金額の中には、上記の原材料費や人件費、消耗品類などが含まれている。詳細は次回以降の稿で述べるが、この2500円の範囲で人的サービスの密度を高めるか、1品豪華で手間をかけずに印象的な素材型料理を出すか、あるいは厨房をオープンキッチンにして演出でサービスを代替えするかなど、方法としてさまざま可能性がある。発想さえ変えられれば、新たな方向は見出せる。(つづく)
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