「儲けるための旅館経営」 その113
日々GOP注視の経営姿勢を

Press release
  2012.2.18観光経済新聞

GOPを重視した経営のすすめ−113

日々GOP注視の経営姿勢を

前回、単価と連動させるサービスと料理提供の可変は、なんとしても手掛けなくてはならないと述べた。これを続ける前に、販売施策の一端としての位置付けを整理しておく。

自社のほしい価格セグメントで、従来どおりに客室を埋めることが可能ならばいいが、現実は容易でない。そこで必要となるのは、先行予約の状況を的確に把握することだ。その日の客室は、その日でなければ売れない。ある一定の時期(例えば3カ月前)に、売ろうとする「その日」を売り切る3カ月間の「販売施策」が必要となる。もっとも、旅館は通年の営業をしている以上、3カ月後の「その日」が毎日繰り返されているわけだ。これを、年間を通じた販売施策とするには、立地する地域のシーズナリティや他の特定条件(地域固有のイベントほか)を勘案し、自社の販売システムとして確立しておくことが前提となる。いわば計画性であり、永年の経験や勘が販売施策を代替できるものではない。

先行予約に照らした販売施策を進める上では、単価下げを辞さない売り方も当然ながらある。肝心なことは、同じエリアに立地する他館の状況を把握して、自社が優位に立てる販売施策を打ち出すこと。それは、単に安くすればいいだけの価格施策ではない。売価に対してGOP確保は前提であり、単価に対するGOPを、常にモニタリングする仕組みを社内に構築しておく意味でもある。その仕組みがなければ、満館になってもGOPの出ていない状況を生みだしてしまう。

反面教師とも言える事例がある。昨年の大震災後は、全国で観光旅行が自粛され、風評被害なども加わって旅館に限らず軒並み低迷を余儀なくされた。リーマンショックから立ち直り始めていた旅館の1軒では、大震災での落ち込みを回復させるために、早期から自社のほしい価格セグメント以下を受ける販売施策を打ち出した。結果、客数は相応に確保できたものの、GOPの下落が浮上した。しかも、自社のほしい価格セグメントが他館に流れていたことが、後の分析で明らかとなった。特別な状況にあった時期だとしても、瞬間的にGOPを度外視した販売施策が「取りこぼし」を招いた。この事例の旅館では、先行予約に照らして対処す販売施策に戻した。日々のGOPモニタリングの重要性を、図らずも教える結果になった。

 本題に戻ろう。「価格を下げてもGOPを確保せよ」とは、矛盾を感じるかもしれないが、「GOP重視で接客に可変性を」(第110回参照)もたせることによって、矛盾ではなくなる。結論からいえば、オールラウンド運営によってサービスのクオリティを落とさずに、GOPはアップさせられるとする発想だ。前回の稿で「1日300人で満室と仮定した旅館の場合、1日の売り上げが300万円の日もあれば、600万円に達する日もある。単価に直せば1万円平均か2万円平均かとなる」との単純例を示した。この数字を別の観点からとらえてみよう。

 例えば、1万円の団体と2万円の小間を比べたときに、接客サービスコストがどう変わるかだ。接客係1人が対応する客数は、団体で1520人、小間が数人だと仮定した場合、どちらのサービスコストが高くつくのか。客室規模や接客グレードなどによって、単純な比較はできない。だが、7000円前後の価格設定に1本化した売り方で利益を出している旅館があることを考えれば、単価とGOPは決してイコールの関係になっていない。単価が低くてもGOPは出るし、高くてもGOPが上がるとは限らない。ゆえに、低単価路線を進めるという話でもない。

さまざまな価格帯に応え、それぞれに満足してもらうのが、日本の伝統と文化を継承する旅館本来の姿だろう。温泉レジャー施設ではない。したがって、経営サイドでは日々のGOPをモニタリングし、一方の接客現場ではGOPの出る運営手法の構築が求められる。そこに、オールラウンド化を進めるマネジメントが必要となってくる。(つづく)